アジアクラスは中庭の向こうだ。
 大理石の輝きも眩しい、白を基調とした古代ギリシア建築とも中世ゴシック建築ともつかないこちら側の校舎を下りると、緑の芝が揺れる中庭に出る。木陰には、そっと遠慮するように佇む聖母像を囲み、涼やかな噴水(カトリック各国の寄付金で作られたと聞く)。腰かけて休めるように、ところどころにベンチも設置されている。
 中庭を抜け、渡り廊下を横切ると、そこがアジアクラスだ。
 二人だけの北米クラスと違って、膨大な人数を誇るアジアクラスは(そもそも「アジア」という区分自体が大雑把すぎる)、敷地も広大である。主楼と呼ばれるのが中央に構えた近代的な校舎。中庭から見えるのもここである。主な授業はこの建物の中で行なわれるらしい。
 朱塗りの柱と豪華絢爛な装飾を誇る低層の建物は、中国を始めとする、主に東アジアの国々の本拠地である。さらには亜熱帯独特の建築様式から成る東南アジア、広大な草原にぽつぽつ浮かぶテント群から成る中央アジア、モスクを囲む西アジアの一角などなど、アジアクラス内部の者でも全体の構成は把握し切れていない。
 そもそもいつも、アジアクラスの面々と会うのは合同授業の時であったり、食堂だったり、寮だったりする。自分からこうしてアジアクラスに足を運ぶというのは、初めてのことだった。
 広すぎてどこから見たらいいのかわからない。とにかく一番入りやすい主楼を片っ端から見てみたけれど、もともと単に授業を行うためだけの無機質な教室や設備が並んでいるだけ。がらんとした、ここに確かに人がいたという何の痕跡もない教室は、俺を更に不安にした。
 やっぱりこの近代的な建物を出て、あの一種テーマパークのような不思議の世界へ飛び込んでみるしかないのかもしれない。そもそもあちらが彼らのホームルームだと聞く。



確か日本がいるのは東アジアの教室だ。もしかしたら日本に会えるかもしれない。あのサンゴクシみたいな建物に行ってみよう!
やっぱり俺一人でサンゴクシの世界に入って行くのはちょっと怖いんだぞ。ヨーロッパクラスを先に見て来ようかな……。
どうせ行っても誰もいないんだろうな。やっぱり今日は休みなのかも。寮に戻ってみよう。



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