おまけ★普通のサンタクロース 冬の澄んだ夜空に数多の星屑が浮かぶ聖夜。吐いた息すら凍るほどの清寒の中、リン、と微かに鈴の音が鳴った。 ああ、確かに人の子が生を受けるに相応しい夜だ。 「モイモイ! フィンランドサンタです! 頑張ってるよい子のために今日はプレゼントをお届けに来ましたー! ってエストニア! 誰に向って喋ってるんだって顔しない!」 真っ赤な服に真っ白な縁飾り。ソリに乗って現われた金髪の若い青年は、トナカイと思しき動物に扮した、二人の青年を振り返った。それぞれサンタクロースの国フィンランド、北欧の大国スウェーデン、バルトの志士エストニアである。 「なんで僕がこんなこと……しかもこの人怖いし」 メガネつながりか、メガネつながりなのか、とエストニアが自問自答したところで、背の高いトナカイが目を眇め、エストニアを見下ろした。 「あぁ?」 「すいませんすいません何でもありません」 スウェーデンの「聞こえね」という一言はエストニアの陳謝にかき消され、ただ白い吐息となって星空に吸い込まれた。 「スーさんお願い凄まないで!」 何やらモメ出したトナカイ二人を仲裁して、「フィンランドサンタは幸せを届けるんだから、急がなくちゃ」と、サンタクロースは手綱を握り直す。 「さあて、次はアメリカさんだね。ほらほら、静かにしてないと起きちゃうよ」 「プレゼントは……」 大きな白い袋の中には、子供たちの夢が詰まっている。 「ええと、新しいゲームソフト、かな」 アメリカの昔ながらの大きな家目指してソリを下降させながら、フィンランドは手元のメモに目をやった。それを受けて、エストニアが目当ての包みを探り当てる。 「あ、あった、これですね」 世界中の子供たちが、祝福すべき朝に至上の喜びを手にできますように。 ――求めよ、さらば与えられん。 神の御使いとして、少々寝不足だって少々寒くったってそんなのは平気。そこに子供たちの最高の笑顔があれば。 「あれっ」 今まさに煙突に足をかけていたエストニアを制して、ソリを自在に操り、件の家の窓を眺めていたフィンランドは、小さく声を上げた。 「どうしたの?」 エストニアが見やれば、フィンランドは頬を紅潮させ、とても嬉しそうに微笑んでいる。 「行きましょう、スーさん、エストニア。もうプレゼントはいらないみたい!」 「んだ」 「え、どういうこと?」 訳がわからない、といった顔で定位置に戻ったトナカイ二匹もとい、聖なる使命の道連れ二人とともに、大きな夢を乗せたソリはぐんぐん高度を上げた。 「さあ急がなくっちゃ! まだまだプレゼントを配る家はいっぱいあるからね!」 |