今頃アメリカはどうしているだろうか、と思うと気が気でなかった。カナダは流れゆく車窓を見つめながらため息をつく。 高く聳える木々を擁した深い緑の森が視界に入るたび、「去年より大きいんじゃないかい?」と電話口ではしゃいだ声が思い出された。 ツリーに使うモミの木は、一週間前に贈ってある。毎年毎年、カナダがプレゼントした木に二人で飾りつけをする時間の、なんと楽しいことか。 年々体重を増す彼に肩車を強いられる苦行を終えれば、ツリーの天辺に大きな星が輝き、パーティの顔として部屋を彩るのだ。 ――ちょっと、もっと右だって言ってるじゃないか! ――しょうがないだろ君が重いんだから……って痛っ! 叩かないでよ! 賑やかな声に満ちる暖かな部屋と、おいしいごちそう、意趣を凝らしたプレゼントの数々――。脳裏によみがえっては、心がほわりと温かくなる。 「車内販売です、いかがですか?」 半ば現実逃避じみた回顧を、降ってきた無愛想な声にかき消され、カナダははっと我に返った。 「いえ、結構です……」 これから空港へ直行する予定だったのに、いったいなぜ自分はトロント行きの切符を握りしめ、東部近距離特急コリドー号に揺られているのか。 しかもそのことに関する上司との一戦で、先程携帯の電池が切れた。まったくツイていない。 「アメリカ怒ってるかなぁ……怒ってるよなぁ……」 君がいなきゃ準備ができないじゃないか! と憤る兄弟の姿がありありと想像できる。せめて連絡くらいしてあげられれば、寂しがったり心配したりはしないのだろうけれど。 いや、寂しいと思われているだなんて自意識過剰だろうか。単に準備係がいなくなった、程度にしか思っていないに10カナダドル。 それでも、カナダは寂しかった。 「思えば毎年一緒だったもんね……」 別々だなんて初めてだよね、心の中で語りかける。ああ、せめて明日のパーティまでには絶対に帰れますように! (2008/12/25)
|
Copyright(c)神川ゆた All rights reserved.
http://yutakami.izakamakura.com/