買ってきたケーキやごちそうは冷蔵庫に納めて、部屋の飾りつけから入ることにする。いつもの家が、きらきら色とりどりに輝くオーナメントに埋もれていくのがアメリカは大好きだった。
 窓には雪の結晶や雪だるまを白く吹きつけ、天井には飾り輪を連ねてぶら下げる。それだけで部屋が何倍も明るくなった気がするから不思議だ。
 極めつけは天井にまでつくほどの背の高いクリスマスツリー。
 雪を模した綿、人型に抜いたクッキー、ステッキ型のキャンディー。
「ちょっと君、なんか偏ってるよ!」
 鼻歌を歌いながら作業に没頭していると、ツリーの下の方が何やら大変なことになっていることに気がついた。
 ツリーの一枝が重みに耐えかねてしなっている。
「ダッテ、手ガ、届カナイ」
 きょとんと人畜無害な瞳が瞬く。その手はまだ、オーナメントを同じ枝に引っかけようとしていた。
「だからってそんな一か所につけちゃだめだよ」
 反対側にもつけてきてくれよ、とトニーに数個の飾りを握らせて、アメリカはため息をついた。なんだか思うように準備が進まない気がする。
 いや、けれどトニーも一生懸命手伝ってくれているのだし、と気を取り直して、ツリーに電飾を巻きつけていくことにした。
 昔は普通にオレンジと赤だったけれど、去年念願かなって青と白のLED電飾を購入した。なんだか大人っぽくていいですね、と日本をはじめ各国に褒めてもらったのがすごく嬉しかったっけ。
 でも去年と同じというのも芸がない。派手な方がいいし、今年は両方つけてしまおうか。
 コード同士が絡まり合わないように注意しながらツリーをぐるぐる巻きにすると、なんだかツリーがどこかで見たような苦笑を浮かべているような気がした。「苦しいよ」とでも言いたげな。しかしいざ電気を通すと、先程までのちんちくりんな様はどこへやら、たちまち幻想的に輝き出した。
「ワォ、いいじゃないか! テンション上がってきたぞ!」
 あらかたオーナメントを出し終わって、それらを納めていた箱を丁寧に片付けていく。
「よし、あとは庭と料理かな……」
 パンパン、と手を払って立ち上がりかけたところへ、くい、と服の裾を引かれて、アメリカは振り返った。
「なんだい?」
 見ればトニーが小さな腕いっぱいに抱えた箱の中に、トニーの顔ほどもある銀色の星が、強烈な存在感を放って収まっていた。
「あーっ、てっぺんの星! 忘れてたよ!」
 道理でなんだか達成感がないと思った!
「それがなきゃツリーじゃないじゃないか! ありがとう!」
 今年のツリーは大きいとはいえ、まだ頭頂に星を戴くだけの余地は残している。
 トニーから星を受け取って、さあ、これで正真正銘のクライマックス。伸ばした腕と浮いたつま先。
「……届かないぞ」
 喜び勇んで気持ちが先走ったが、星はまだアメリカの手の中にあった。
 当たり前だ。先程だってツリー上部の飾りつけは椅子に乗ってやったのだから。
「バカじゃないのか俺は……疲れてるのかな」
 一人漫才を演じる格好になったアメリカをトニーが不思議そうに見上げてくるのに赤面しつつ、よっこらせと椅子を据えつけた。
「これでどうだ! とぉー!」
 プルプルプル、と膝裏の筋肉が痙攣しているのがわかる。これ以上無理をしたらツリーめがけて倒れ込んでしまいそうだ。
 しかし目指す頭頂部にはもう5センチ足りないといったところ。
「ハハハハおかしいな! 今年はツリーがスペシャルにデカいのかな!」
 ああ、無駄な汗をかいた。
 早々に諦めて椅子を下り、すごすごと椅子を元の位置に戻しながら、なおも独り言は続く。
「そういえばガレージに脚立があるんじゃないか、そうだそうだ、まったく早く言ってくれよ!」

(2008/12/23)

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