その日、アメリカの心は弾んでいた。
 助手席に乗せていた大きな紙袋を、出迎えた小さな友に渡す。「オモイ」とくりり目を丸くする彼に笑って、後部座席からも同様の紙袋を二つ、三つ取り出して小脇に抱えると、ドアが閉められなくなった。
 ドアはそのままにして、トニーが片手でなんとか開けてくれた勝手口から中へ入る。
 ドサリと荷物をおくと、キッチンのテーブルはそれだけでいっぱいになった。
 うんうん言いながら後をついてきたトニーからひょいと紙袋を取り上げて、「車のドアを閉めてきてくれないかい?」と頼めば、「ワカッタ」と小気味いい返事。
「さてっと」
 外は寒いが、中は文明の利器のおかげで暖かい。セーターの腕をまくると、気分は一層弾んだ。
 折しも12月は23日。これから一足早いクリスマスパーティの準備をするのである。




のんびりやのサンタクロース




 同日。オタワ。
 一人の男が、クリスマスを控え和やかな雰囲気を迎えた街を爆走していた。
「あぁあもう、毎年アメリカのパーティ手伝わなきゃいけないから早めに休暇くださいって言ってるのにあの上司……!」
 だって新年までにこれ終わらさないといけないし、まぁ24日の夕方にはクリスマス休暇にしてあげられるから、と昨日突然言われた。
 アメリカが24日の昼からいつものように他国を呼んで、盛大なパーティをするのは知っていた。そしてカナダは毎年彼のパーティを手伝っている。いつも当然のようにカナダをこき使う彼だが、仕事だからごめんね、なんて理由で納得してくれるはずもない。カナダのくせに、と拗ねられることは確実である。
 何より、二人で楽しくパーティの準備をすることもそうだが、パーティのあと二人でミサに行って、一緒に寝て、翌朝プレゼントを交換して、のんびりとパーティの後かたづけをする時間が何よりもカナダには大切だった。はっきり言っておく。これがなければクリスマスじゃない。
 このまま唯々諾々と24日に解放されると、アメリカのもとに向かった頃にはすっかりパーティが終わっていることになる。いつものように準備を手伝ってあげなかったカナダと、アメリカがにこにこミサに行ってくれるものだろうか。
 普段は残業などしないカナダだが、昨夜ばかりは頑張った。なんとしても、なんとしても明日の午前中には仕事を切り上げたい、と。その結果、徹夜明けで朦朧とする頭を振りながら爆走する羽目になっているのである。
 プルルルルル……。
 突然、コートの中の携帯が鳴った。もしやアメリカからの「遅い!」コールだろうか。
 頑張ったのだから、少しは労わってほしいものである――などと思いながら、カナダは携帯のボタンを押した。

(2008/12/23)

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