「バカじゃないのかなって思うよ」
 不本意ながら、プレゼントもといサプライズを用意するのに丸一日の猶予を与えられた俺は、素直に彼の好みを知っていそうなフランスを捕まえた。いや、見つからなければそのまま帰ろうと思ってた(まぁカナダだしな!)。帰り際に偶然会えたのはラッキーだった。
「あ、それな。提案したの俺」
「君なのかい? いい歳して、頭の中までメルヘンなんだな!」
「だってー、カナダの奴が、ヨーロッパクラスの誕生会の話をしたらえらく羨ましがったからよ。お前んとこでもやれば、って」
「クラスで誕生会? 君たちそんなことやってるの? キンダーガーテンじゃないんだから」
「お前には言われたくねぇんだよ、この派手好きめ。自分は散々祝ってもらっといてよ……」
「俺のはインデペンデンスデーだぞ。人間は生まれながらに等しく自由だということを全世界に知らしめた日だ」
「あっそ。うちのクラスのだってなぁ、何も毎月『七月生まれの人〜』ってやってるわけじゃねぇよ。宗教上の問題とかで一緒に祝えねぇ行事があるときに代わりにやるんだ。だからイギリスも……」
 イギリス、という言葉に情けなくも反応してしまった俺を目ざとく捕らえて、フランスは一旦言葉を止め、にやりと笑った。
「……楽しんでるみたいだぜ?」
 イギリスにはこれといった誕生日がない。
 そして厄介なことに、人一倍寂しがりやだ。
 そんな彼が「誕生会」だなんて名目で浮かれているときた。
 おもしろくない。
「来年から俺も呼んでよ、呼ぶよね?」
「え、いや、ヨーロッパクラスだけの行事だから……」
「呼ぶよね?」
 語気を強めれば簡単に「ハイ」と頷いた彼に満足して解放しかけ、俺は本来の目的を何一つ達成していないことに気がついた。
「あーっ、ちょっ、待っ……!」


 翌日。
 俺はドサリと手に持っていた荷物を机上に置いた。がらんとした教室。始業三十秒前。校舎内は生徒達の気配でざわついているのに、北アメリカクラスにだけ、それがない。
 おかしいなと思いながら席についた。カナダも相当のんびり屋で時間にルーズなところがあったけれど、少なくとも朝来る時間は決まって始業五分前だった。
 たまに、と言えるかどうかもはや怪しいくらいの頻度で寝坊をする奴ではあったけれど、まさか今日に限ってそれはあるまい。
 自分であれだけ主張したのだから。
 ガサリ、と机に置いたビニール袋が鳴る。中には机の半分くらいの大きさの、紙製の箱。
 どうしよう。
 それは一見すれば内容物がなんであるかわかってしまう代物で、かつナマ物でもあったから、昼までどこかの冷蔵庫でも借りた方がいいかもしれない、と思う。保健室か科学準備室あたりにあっただろう。
(心を込めて作ったお菓子が一番嬉しいもんだぜ)
 昨日、まったく参考にならない意見を残して去っていったフランスを思い出す。
 本当に参考にならない。聞きたかったのはそんな一般論ではなくカナダ個人の嗜好であるし、お菓子を作るなんて面倒すぎる。
 ただ、あいつがケーキを食べるんだとかなんとか言っていたことは記憶に残っていたので、ちょうどいいと思って帰りに近所のケーキ屋に寄った。昨日買ったケーキだが、問題はないだろう。
 冷蔵庫について考えているうちに本鈴が鳴ってしまい、俺は諦めて、隣の空席にケーキの入った袋を置いた。















正宗さんとの企画ブログ「1年北米組 クマ二郎先生!」にあげたもののログです。


(2008/7/2)



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