84315日の決意



 ちょうど国連本部を出たところでだった。
 黒塗りの高級車に乗った上司やその部下を見送って、これからのんびりお茶でもしようかというところだった、些細な言い合いがデッドヒートしたのは。
「だいたい、誰が育ててやったと思ってるんだ?」
 アメリカの一番突かれたくないところを、イギリスがピンポイントで突いてくるから、思わずカアッとなって、アメリカは往来だということも忘れて叫んでしまう。
「育ててくれなんて頼んだ覚えはないね! だいたい、君に放っとかれても俺はひとりで立派に成長してたさ!」
「なんだと! いつもいつも恩を仇で返すようなようなことばっかりしやがって! お前のせいで俺がどれだけ苦労したと思ってるんだ!」
「はぁー? 何もかも俺のせいにしないでよ、単に君が不甲斐ないからじゃないの?」
「ナメんなよテメェ! ……っもういい! お前の顔なんか二度と見たくねぇよバカ! おいフランス! 飯でも行こうぜ!」
「え、俺に振るなよ……」
 迷惑そうな口ぶりでも、顔は決して嫌がってはいない。そんなフランスを見て、アメリカはさらに気分が悪くなるのを感じた。
「勝手にすれば? 何せ1000年以上の付き合いだもんね、老人コンビでお似合いだよ!」
 イギリスやフランスと同じ道を歩いているのが嫌で、言い捨ててさっさと向こう側の歩道に渡ってしまおうと足を踏み出したところで、イギリスが渾身の大声を上げる。
「お前なんか大っ嫌いだバカァ!」
 それは光栄だね、こっちこそ、と返してやろうと振り向いた瞬間、猛スピードでこちらへ向かってくる、赤い車体が目に入った。
 もはや身を引く時間は、ない。
「アメリカッ!」
 イギリスのやけに悲鳴じみた声だけが、いつまでもいつまでも耳にこびりついていた。



 覚悟した衝撃はなくて、イギリスが昔よく歌ってくれた、懐かしいメロディが、爽やかな風に乗って運ばれてくる。
 どこかで誰かが、鼻歌を歌っているようだった。
 ふと目を開けると、見知らぬ森の中、木々が開けた広場のような場所に、アメリカは横たわっていた。
「ええと……」
 何が起きたのかさっぱりわからない。
 とりあえず身を起こす。きょろきょろと辺りを見回しても、まったく心当たりのない場所。
「天国にでも来てしまったのかな……」
 国にも天国に行く資格があったとは。なかなか光栄だ。
 歌声に誘われるように、ふらりと歩を進めた。鬱蒼とした森を行く。なんだか、お菓子の家でもありそうな。
 しかしまず視界に入ったのはお菓子の家ではなく、きらきら輝く清流と、これまたきらきら輝く金の髪だった。
 小さな子供が、小川のへりにうずくまっている。懐かしいメロディを口ずさむのは、間違いなく彼なのだった。
 まるでフェアリーのような、いや、ホビットだろうか、深い森色のマントを纏い、背には何本もの矢を背負って。
 しかしながらこの子供、どうも誰かに似ている気がする。
「やあ、君、この辺の子かい? ちょっと道を……」
 教えてほしいんだけど、と言いかけた矢先、子供はビクッと肩を震わせたかと思うと、全身から殺気をみなぎらせて、アメリカを睨んだ。
「だ、……誰だお前っ!」
 ぎらついた瞳が、幼児らしい柔らかそうな顔のパーツからまったく浮いている。
「俺は、アメ……」
「おまえっ、海から来たのかッ! フランスのところから! それともデンマークか、ノルウェーかッ!」
 アメリカは子供の剣幕に少しひるんで、しどろもどろに返答した。
「え? え? た、たぶん違う……よ」
「じゃあ兄さんのところからかッ!」
 さらに子供は続ける。
「え? 兄さん? 誰?」
「とぼけるな! スコットランド兄さんのところから来たんだろう、長城を乗り越えてッ! 俺を殺しに来たのか!」
「は?」
 何と言ったものやらアメリカが戸惑っていると、目の前の子供は大きな目に涙をいっぱいに溜めて、ぎゅっと手に持った弓を握りしめた。
「……つ、辛くなんかないんだからな……っくそ……!」
 小さな子供が涙をこらえて震えている様子はどうしようもなく庇護欲を掻き立てて、泣かなくていいんだよ、と屈みこもうとした矢先。
「死ね!」
 なんて、弓矢を引き絞ってアメリカに照準を合わせてくる。
「危ないじゃないか!」
 ためらいもなく発射された矢を、必死でかわす。幼い姿形に油断したが、なかなかの腕前のようだ。怖い怖い。
 息をつく暇もなく、次々と弓矢を連射されて、アメリカは命からがら木陰に身を隠した。
 適当に乱射しているのではない。すべてアメリカをすれすれで掠めていった。あれは本気でアメリカを殺そうとしている矢だ。
 襲撃が止んだようなので、恐る恐る木の幹から顔を出すと、小さい体はとっくに小川を越えて、はるか遠くへと走り去ってしまっていた。
 追いかけようにも、こう木々の生い茂った森の中では、慣れないと走ることもできない。
 さっき、スコットランドを「兄さん」と言った。じゃああれは、あの子供は……。
「ひょっとして、イギリス?」
 なんてことだ。どうやら自分は、頭でも打って変な夢を見ているらしい。
 アメリカは思い切り自分の頬をつねって、そうしてものすごく後悔した。
 痛む頬をさすりながら、なんとか森の出口を探す。
 さっき見たイギリスのような子供は自分の白昼夢だったことにして、帰る道を求めてひたすら歩き続けた。それでも頬はズキズキ痛む。もっと加減すればよかった。
「なんだっけなぁ……迷子になったらその場から動くな、か……」
 昔イギリスに嫌というほど言われた言葉だった。
「でもな、誰も探してくれないんじゃ、じっとしてたって意味ないしなぁ」
 不安を隠して、唇噛み締めてじっと動かない行為は、探してくれるであろう誰かに向ける絶対的信頼なのだ。
 本当に深く深く愛された子供にだけ、それができる。
「俺は……」
 残念ながら、もう子供ではない。
 歩き疲れてへとへとになった頃、もうすっかり日も傾いて、少し肌寒くなってきた。下ろしたばかりの革靴はもうボロボロ。スーツの裾も土まみれだった。
「もしかしなくても野宿決定?」
 冗談じゃない。
 高層ビルの森に車の流れ。自分はニューヨークにいたはずではなかったか。
 赤い空は徐々に紫色に近づいて、星までもが輝きだした。明かりのない森では、手探りで歩くことも難しくなってくる。草に足を取られて転んでしまった瞬間、暖かな光を見た、気がした。
 ばっと起き上がると、確かに見える、木々の間に揺らめく炎。
 どうか人食い人種じゃありませんように、と願いながら、アメリカは手探りを再開した。
 パチパチ、と音を立てる炎の前に、一人の子供がうずくまっていた。それは何度目を擦ってみても、先ほどの小さなイギリスに違いなかった。
 さっきはあんなにおっかない顔をしていたのに、今は花が咲いたかのようにかわいらしい笑顔を振りまいて、あっちを向いたりこっちを向いたり、くすくす笑ったり、小さな首が大きな頭をくるくる動かして、大変忙しそうだ。
 ああ、今なら平気かな、と一歩を踏み出した。
「ねぇ」
「うわぁお前まだい……っ!」
 声をかけると、イギリスは飛び上がって、慌てて背中の弓に手をかける。
「そこにいるの、君の友達かい?」
 攻撃されないようホールドアップの姿勢を取りながら、思わず笑ってしまった。――どうせ君のことだから、また変な幻影でも見てるんだろう。それでさっきから何もないところに向かって話しかけたりして、楽しそうなんだ。
 そうしたら、小さなイギリスはきょとんとした。
「う、うん」
「そうか! 俺とも友達になってくれるかい?」
 卑怯なようだが、イギリスが「友達」という言葉に固執することを、アメリカは知っている。
「お、お前が……俺の、ともだち……?」
「うん。あ、『お前』じゃないぞ、俺はアメリカ!」
「アメリカ? 聞いたことないな……」
「そりゃそうだよ」
 わけがわからないという顔で見上げられたので、さりげなく距離を詰めながら笑ってみせる。
「俺はずっと遠くから来たんだ。フランスなんかとは反対側からね」
「はんたいがわ……にも、国があるのか?」
「いっぱいあるぞ!」
「お前みたいに、大きな奴が、いっぱい?」
「君もすぐに大きくなるよ」
 どうやらイギリスは自分を攻撃する以外のことに気を取られているらしいと判断して、アメリカはまんまと子供の隣に座ることに成功した。
 これだけ近くに来ればありありとわかる。なんて小さいんだろう。なんて頼りないんだろう。
 これがあのイギリスか、と思うと、なんだか不思議でしょうがなかった。
 イギリスにもこんな時代があったのだと、無性に嬉しくて愛しくて仕方ない。
「君もすぐに大きくなって、そうして、寂しがりやな子供を、こんなふうに抱きしめてくれる……」
 言いながら、そっと小さな体を包み込むと、イギリスは2、3秒固まった。すっぽり腕の中に納まってしまった体に、優越感を感じずにはいられなかった。
 そのあと、小さなイギリスはふるふると震え出して、背中をさすってやるうちに、ふぇええええと間抜けな声を上げて泣き始めてしまった。
 やわらかく温かいからだ。小さくて、華奢で、強く抱きしめたら粉々に壊れてしまいそうな。
 子供のふわりとした匂いに心地よく目を閉じる。さらさらとした髪に触れて、ひっくひっくと痙攣する肩をそっと撫で続けた。
 しばらく泣いて落ち着いたらしい、アメリカの腕の中に居座ったまま、イギリスは恐る恐るといった風に甘えてくる。
「アメリカが、友達じゃなくて、兄さんだったらよかったのに……」
「どうして?」
「だってアメリカはずっとずっと遠くに住んでるんだろ」
「そうだね」
「すぐ近くにいる兄さんは、こんなふうに優しくしてくれないんだ……」
「……君は、兄さんが大好きなんだね」
「うん」
 不思議だ。どうして子供相手だと、こんなにも優しい気持ちになれるんだろう。
 自分がこんなに穏やかでやわらかい声を出せるとは思ってもみなかった。ほわりと胸を満たす温かい気持ち。
 ふと、イギリスもそうだったのかな、と思った。
 幼いアメリカを見守ってくれていたイギリスも、そうだったのだろうか。
 しんみりと考えてこんでいると、イギリスはアメリカの顔をじっと見つめていた。
「アメリカ、それは何だ?」
「それ?」
 び、と急に眼前に人差し指を突き出されて、思わずのけぞってしまった。
「あ、危ないじゃないかイギリス……人の目を……っ」
「イギリスってなんだ? 俺はイングランドだ」
 アメリカの抗議を聞いているのかいないのか、さらりと名前を訂正される。
「あ、そうだね、ごめんごめん」
 もう一度イギリス改めイングランドは、じっとアメリカの顔を見つめた。
「それ、なんか赤くきらきらしてるの、何だ?」
「きらきら……?」
 イングランドの目線を追うと、どうしても目が合う。しばらく考えて、ああ、と合点がいった。
「これかい?」
 メガネを外して、炎に翳す。移りこんだ光はちらちら踊って、たしかに赤く燃えていた。
 イングランドの小さな手が伸びて、ぱっとメガネを奪われる。
「あ……」
 やられた、と思った。思い切り素手で触られた、レンズの部分を。
「ちょ、ダメだぞそこ触っちゃ!」
 冗談じゃない、くっきりついた手の皮脂を拭うのには、清潔な布が必要だが、あいにく昼間手を拭いたハンカチしか持っていない。
 メガネの汚れは心の汚れだと、アメリカは常々思っている。
 クリアな視界が実現されなければ、アメリカの仕事のクオリティは45%低下するのだ。
 イライラした。
 やはり単に「かわいい」というだけでは、そこまで尽くしてやる気にはなれないな、とアメリカはぼんやり思った。子供というのはそういうものだ。あんなに可愛い外見で人を引きつけ、天使のようだとまで思わせておいて、やはり望む通りの行動ばかりはしてくれない。期待が外れたことに勝手にイラだってしまう。
 同時に、そんな自分の浅はかさになんとなく気が滅入った。
 イギリスは、どんなにアメリカがワガママを言っても、決してアメリカに愛想を尽かしたりはしなかった。そう、独立するなんて最大のワガママを言った後でも、イギリスはアメリカが大好きだ。
「返してね」
 イングランドはアメリカのイラだちになど気づいていないらしい。
 もう飽きてしまったのか、あっさりメガネを手離した。
 仕方なく、ハンカチで乱暴にレンズを拭うも、どことなく曇りが残った。
 いったいどうして自分はこんなところにいるのだろう、と思った。過去のイギリスに会って、のほほんと会話しているなんて、何の意味があるというのか。
 そうだ、そもそもアメリカとイギリスはケンカしていたのだから、と本部前での出来事を思い出した。
 ふいに、遠くで狼の遠吠えが聞こえた。ざわざわと木々が揺れると、突然、イングランドはビクリと肩を揺らした。
 それでアメリカは考え事から引き戻される。
「火をっ、消して、隠れないと」
 かわいそうなほどにガタガタと震えているイングランド。
 何が起こったのかと、アメリカは緊張していく自身を感じた。
「どうして?」
「海から、海から奴らが来るんだ――」
「奴ら?」
「全部持っていっちゃう、大事なもの全部。奪って、殺して、焼いて――」
 イングランドはぎゅっと目を閉じ、耳を塞いだ。
 耳をすませば、風に乗って、かすかに人の声がする気がした。それも一人や二人ではない。ざわり、と嫌な予感がした。
「俺たちはみんな、そうやって生きてきた。誰も信じられない、生きるために、殺さなければ、こっちが殺される……!」
 しばらく目と耳を閉ざしてじっとしていたイングランドだが、それは彼にとって何かの儀式のようなものだったらしい。いつまでもそうしてばかりはいられない。それは彼自身が一番よくわかっているのだろう。
 震えながらも毅然とした顔で、弓矢を手に立ち上がったイングランドは、確かに今のイギリスに面影を残していながらも、アメリカのまったく知らない顔をしていた。
 先ほどまで年相応に泣きじゃくっていた姿からはまったく想像もできない豹変ぶりだった。おかしな話だが、アメリカはこんな年端もいかない自分より数倍小さな子供に、胸がすくような感動と尊敬を覚えていた。
 ――イギリス。
 世界地図に現れたばかりの国が、立派な大人になれるかなれないかは、すべてこれからさらされる苦難に耐えるだけの運と実力を備えているかにかかっている。
 幾多の国が生じ、そして消えていった長い長い歴史を思った。
 国が生まれ滅びる。アメリカはその片鱗すら知らない。アメリカは自分が幸せな時に生まれ、幸せな時代を生きたことを、知識としては知っていた。
 ――けど今、はっきりわかった。
 これは、アメリカなんか到底知ることのできない、想像すらできない、数々の苦難を乗り越えていく男の顔だ。乗り越えて乗り越えて、そうして決して揺るがぬ強さを、優しさを、愛情を心に抱けるまでになる男の顔。
「ユニコーン! アメリカを安全なところに連れていってくれ!」
 何を、と言おうとした瞬間、体が絶対的な力に引っ張られるような衝撃を受ける。
 いや、これは、押されているのか。よくわからない。アメリカの足は地から離れ、倒れそうになりながらもすごい速さで後方へ飛ばされていく。
 伸ばした手の先で、イギリスが――いや、イングランドが笑った。
「いやだ、イングランド!」
 武器を手に手に、雄叫びを上げて押し寄せてくる無数の無頼者たち。森の木々を揺らして、小さな体の後ろに、まるで津波のように。
「イングランド!」
 イングランドを助けに戻りたいのに、体は全然言うことをきかない。
 なんてことだろう。あんなに怯えていたのに、アメリカを守ろうとしてくれた。自分より数倍体の大きな、外見だけは立派な大人のアメリカを。
「イング……イギリス!」
 ――敵わない。
 アメリカはどう足掻いても、この人には敵わない。なんとなくそう思った。
「ばいばい、アメリカ。ずっと友達だぞ」
 どうしようもなく愛しくなって、恋しくなって、寂しそうに笑うイングランドを、もう一度抱きしめてあげたかった。
 代わりに、精一杯叫んだ。喉が裂けてしまうくらいに、声を張り上げた。
「イギリス! 絶対にもう一度会えるよ! 一人は辛いって、誰よりも知っている君が、広い広い大陸で、一人ぼっちで泣いてる小さな子供に、今度は君が――」
 ――忘れないで、イギリス。
 イギリスが守ってくれたから、アメリカはイギリスのような、大事なもの全部奪われる喪失の悲しみを知らない。小さな体をいっぱいに震わせなければならないような、襲われる恐怖も知らない。
 ――ああ、俺は忘れない。
 イギリスが誰に嫌われても、アメリカだけは絶対に、あの温もりを忘れたりしない。



「イギリス!」
 伸ばした手の先は、真っ白な天井だった。
「あ……れ?」
 思わずぽかんと呟けば、若干低く感じる声がかかる。
「起きたのか、アメリカ!」
「イギリス……?」
 無論、低くなってなどいない。先ほどまで聞いていた彼の声が、高すぎただけのことだ。イギリスは、いつものイギリスだった。
「アメリカ……よかった、俺、俺、あのままお前が死んじゃったらどうしようって、俺、お前に『大嫌い』なんて言ったままで……!」
 瞳に涙をいっぱい溜めて、ふるふる震えているイギリスが、ふと小さな子供の姿と重なった。
 ああ。もう大丈夫なのに。
 イギリスが頑張って頑張って生き抜いたこの世界では、もうふいに大事なものを不条理に奪われたりなんか、滅多にしない。
 それは、イギリスが苦しんで耐え抜いて頑張って、ここまで大きくなったから。
「念のためにCTも撮って、軽い脳震盪起こしただけだろうって言われたけど、ホントに俺、俺……」
「いたた……! ってコブになってるじゃないか……くそ……」
 イギリスの話をそらそうと、アメリカは大げさな声を上げた。
 謝るなら、自分から謝りたかったのだ。
「……夢を、見てた気がする」
「は? 夢? 臨死体験かッ? 大丈夫かよオマエ!」
「……君の夢だったよ」
 ごめんね、とは声に出さずに笑った。うまく笑えているのかは、いまいち自信がないけれども。
「え……」
「君は夢の中でも友達いないんだな!」
「ハァ? うるっせーよバカ! お前の夢のことなんか知るか!」
 面食らったように真っ赤になったイギリスが、怒鳴りつけるのにも構わないフリをして、アメリカは続けた。
「だから、俺が友達になってきてあげたんだぞ!」
「……ア、アメリカ……」
「そしたら君、『ずっと友達だぞ』って。でもそれはご勘弁願いたいなぁ……って言う前に目が覚めてね」
 感動したかのように声を詰まらせていたイギリスが、ひくりと口元をゆがめた。
「……お前、さっきから俺をからかって楽しいか」
 アメリカには想像もつかないほど長い長い歴史を生きてなお、アメリカのような若輩者の言葉に一喜一憂するイギリスに、アメリカは、耐えきれずに笑ってしまった。
 それはきっと、どんなに辛くても、大切なものを決して諦めなかったイギリスの、生き様なんだろうと感じた。自分がイギリスの「大切なもの」であることを、ここまで確信していてなお、少しだけ、怖い。

「……やだなぁ、これから一世一代の告白するんだから、ちょっと黙って聞いててよ」
















 すいません、スコットランドさんもノルウェーさんもデンマークさんも出す勇気がなかったです……。「ボロボロになってる英」だって言ってるのに、少しイギイギをかっこよくしすぎた感がありますが、夢見る乙女なので笑って許してやってください。
 しかもなんかノリでメリカが男になりそうです!! うひょーっ!
 ちなみに231年×365日=84315日。無論電卓を使った(威張るな)。

 ヨーロッパの伝統ある国々は、本当に大きなものを抱えてここまで来ていると思った。メリカには決してわからない重みが、生々しい実体験でもって彼らには刻まれているんだと思うと、なんだかもうたまらないっスね。メリカじゃなくてもイギイギをぎゅってしてやりたくなります。
 ちびりすについてはまだまだ研究中ですが、奴のビジュアルはもう大好物なので!(←●ョタ)楽しく萌えつつ書かせていただきました。R様、リクエストありがとうございました!


どうでもいい眉つばコラム★ちびりすについて本気出して考えてみた(かわいいちびりすが大好きな方は読まずにスルーしてください)
 ちびりすは「周辺諸国からいじめ抜かれて、大変孤独な幼少期を送った」というイメージがあったのですが、そのイメージの元となったのは御本家さま「イタリア建築素晴らしい」のちびりすの「うう…兄さん達は俺見ると弓矢撃ってくるし…、フランスは攻めてくるし…一人は辛いな…」と泣いている姿だろうな、と思います。
 しかしイマイチ「それっていつの時代だろう?」とピンと来なかったので、必死でおさらいしまくってみましたが、やっぱりどの時代もこの「可哀そうなちびりす」イメージに合わない。アングロサクソンやデーン、ノルマンの血を受け継いだ、今も昔も好戦的なノリノリ謀略国家な気がする。
 ど、どういうことだ……漫画を参照するに、神聖ローマがいる時代……って広いよッ!(神聖ローマ:962〜1806)
 じゃあ「フランスは攻めてくるし…」っていうので攻めるか……って多いよッ!(英仏戦いすぎ)
 せめて神聖ローマがイギリスにイタリア建築を建てにきた年号とかがわかればいいんだけど、そんなのグーグル先生に聞いても聞いても引っかからないし……。建築が素晴らしいっていうんだからイタリアルネサンス頃かな。じゃあ14、15世紀……?
 その頃に「フランスに攻められた」といえば1339〜1453の百年戦争ぐらいなものだけど……。だとしたらあたかもフランスが一方的に攻めてくるみたいなその言い草はおかしい。元はといえばイギイギの方がちゃっかりフランスを乗っ取っちゃおうとして始まった戦争です。挑戦状とか送りつけちゃってます。スコットランド征服を企んで、スコットランド王をフランスに匿われたりしている。極めつけに、主に戦場となったのは(現在の国境でいうなら)フランスだ。
 この状況で「一人は辛いな…」と泣ける神経の持ち主がいるなら見てみたいんだぜ!
 じゃあ違う時代なのか……もうそろそろ訳がわからなくなってきましたね! もうちょっと前の時代なんだろうなきっと!
「フランスは攻めてくるし…」に一番ふさわしいのはノルマンディー公国の襲来のような気がする。うん、これならさも一方的に攻められているかのような口ぶりでもまったく問題ない。
 ってことはこの頃の哀れなちびりすは、11世紀頃の、ようやっとデーン人王朝追い出したぜ、な息も絶え絶えなアングロサクソン王朝なんですかね……デーン(現在のデンマークあたりに住んでたノルマン人)やノルマンディー(フランス北部に住みついたノルマン人の公国)やノルウェーに攻められたりしてね。うん、ちょっとかわいそうになってきた。

 しかしそれはいいとしても、だいたい「兄さん達」ってなんだ。連合王国の愉快な仲間たちのことだろうか。スコットランドとかアイルランドとかウェールズとか? なぜ「兄」? 弟でなく?(イギイギの方が強そうなイメージがあるもんで……)ケルト系でアングロサクソン系が来るより前にもともとブリテン島に小国作ってたから? かなぁ……。
 もしそうだとしたら、「兄さん達は俺見ると弓矢撃ってくるし…」って、むしろお前がいきなり侵入してきて北の方に追いやったり(第一印象から最悪)、植民地化しようと攻め込んでみたり、現地貴族と協力して謀略巡らせてみたり、新教強制しようとしてみたりそりゃあお前弓矢も撃つよ。と言ってやりたくなった。何考えてるのあのお子様。相当かわいくない弟だよ、ちょっと自分の行動省みてみなって!(焦)「兄さん」とか夢見てるけどお前たぶん最初は血ィあんまりつながってないよね、みたいな。

 だいたいイギイギは元ヤンだの海賊だの言われてるけど、いつがその一番ブイブイ言わせてた「元」な時期なのかって、そりゃあもうまさにちびりす時代じゃないのか?
 あんな可愛い顔してユニコーンと戯れて友達いないって泣いちゃったりしてますけど、実は恐いんですこの子! ヤンキー(現役)なんです! 海賊(現役)なんです! ってことか……? 恐ろしい子……!
 この頃のギリスは、フランスやルネサンス迎えたイタリアには、素で「野蛮人ばっかりの田舎者国家」と思われていたそうですね。あぁ、やっぱり。
 御本家の8月の日記ログの、イングランド枕を抱えて「ハハハハ」って不敵な顔して笑ってたちびりすこそが、むしろちびりすの真の姿なのではないかと思いました。あいつもう最高にかわいいよ!

 と、いうわけで長くなりましたが(一番頭がこんがらがってるのは私です)、この話のちびりすは、1042〜1066ごろのアングロサクソン王朝だということにムリヤリ設定いたしました。フランスや北欧諸国からはいじめられているけれど(もうすぐフランス系貴族の支配下に入るよ!)、お兄さん達に関しては、スコットランドにはむしろちびりすがたまにケンカを売っており、ウェールズやアイルランドまではまだ手が回ってない、という状況のような気がします。この辺のこと詳しい方いたらぜひ教えていただきたいですもうホント……! ちびりすあの子は何なの!? なんでこの状況で「兄さん達は俺見ると弓矢撃ってくるし…」で涙ぐめるの!? 今のところ私の中で、ダントツ「イギイギの迷言」一位です。お前が悪いんだよォ! と叫びたい。まぁ、よっぽど寂しかったんだね。
 たぶんイギイギは神聖ローマがイタちゃんに迫るのと同じく「兄さん、俺と一つになろう!」とか言って迫ることしかできない、素直に甘えられない子なんだろう……とムリヤリ結論づけてみたが、想像してみたら存外キモかったので(ムッツリ神聖ローマの破壊力はスゴイんだぜ……!)素直にこのエピソードは却下しておきます。まぁ将来的には一つになれたみたいでよかったじゃないかイギリちゅ!(薄笑)

 ちびメリカは大人メリカと違って常識人で空気が読めて何考えてるのかわかるが、ちびりすは大人イギイギと違って、何を考えているのかさっぱりわからない宇宙人だったようだ。ジグソーパズルのようにカチッとはまる二人だな……さすが米英なんだぜ!



(2007/10/2)



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