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朝起きたら片方が布団に潜り込んでるシリーズ(※タイトル)米英編
「んん……」
今何時だろう。ここ最近、深夜に目覚めることが多かったから、目覚めてすぐに窓から漏れてくる光の加減と、ベッドサイドに置いた目覚まし時計を確認する癖も板についてきてしまった。
今週に入って急に寒くなった。だというのに自分はしょっちゅう掛け布団を蹴飛ばしてベッドの外にリングアウトの刑に処していることも少なくない。今日もやけに掛け布団と毛布が突っ張っているような気がしたのは、そういう理由だと当たりをつけて、視線を下げると。
「おい……アメリカ……お前一体、誰が育ててやったと思って……」
寝言か。
他人がここまでハッキリした寝言を言うのを初めて聞いた。
緑の双眸は白い瞼の下に多い隠され、今はただ時折、金の睫毛が震えるのみである。
規則正しく上下する肩。前髪を乱して人のベッドに全体重を預けている様からは、当分覚醒の兆しは見えなかった。
どうせまた酔っ払って前後不覚のままここに辿りついたに違いない。合鍵を渡しておいたのは失敗だった、とアメリカは軽く舌打ちした。
いつもは寒くて震えるほどの朝。時計を見やればもうすぐ六時。外はようやくうっすら明るくなり始めている、というところだった。それなのに今日は、起きるのをためらわせるだけの、刺すような容赦ない冬の寒さが感じられない。
「体温高いって、子供かい君は」
無防備な頬をつねってみても反応はない。よほど深酒したのだろう。漂ってくるアセトアルデヒド特有の匂い。
「まったくしょうがないな」
前後不覚に陥るほど酔って、理性を失った状態で、辿りついたのがアメリカの家であるということが、なんだか無性に誇らしかった。それほどまでに、アメリカがこのどうしようもない酒乱もとい元親の、深層心理に棲みついている証のようで。
寝顔はまるで子供のようだ。どちらが年上かわかったものじゃない。
どうせ起きやしないのだろうが、できる限りの気を遣って、そっとベッドを抜け出した。
「うーん」
思い切り伸びをすると、背中からバキバキッと音がする。カーテンの隙間から覗いた空は、漂う雲は多いものの、泣き出しそうには見えなかった。二日続いた雨を思うと、自然と気分も上昇する。今日はいい日になりそうだ。
「まぁ、たまにはこんなのもいいかもね」
振り返った先で、ごろりとどうしようもなく寝そべった体が転がる。仰向けになった彼のシャツはほとんど肌蹴ていた。よく見れば、玄関からここへと至る廊下にはセーターやらスラックスやら靴下やらが点々と足跡のように残されているのだった。この寒いのによくやるものだ。まったく暢気な。対するこちらは生憎と、三十分後には出なくてはならない。
もっと早く起きればよかったな、だなんて認めたくない感情をさっさと意識の片隅に追いやって、アメリカはクローゼットを開け、適当な服を身つくろう。突然酔客が紛れ込むだなんて珍事、常識人には予想しようもないのだから仕方ない。
いつもなら脱ぎ捨てたパジャマはベッドの上に散らすものを、今日はなんだかそれも憚られて、本当に困った人だと口の中で転がす文句。
「ロクなことしないんだから」
一向に起き出す気配もない人をちらちら気にして、なんだかそわそわしている。当の本人はそんなことはつゆ知らず夢の中。なんとも不公平ではないか。
「もう行くからね」
なんだかんだで、朝の貴重な数分が過ぎ去るのは早い。気づけばあっという間に、時計の針は見慣れた位置に移動していた。
声をかけてみても反応はない。何しに来たんだか。ああ、アルコールに侵された体を休ませに来たのか。
逡巡する間にも、時計の針はじわじわと動いている。
ええい、もう。
さっと掠め取ってやった唇に、一人で体を熱くしながら、アメリカは走り去るようにして玄関に向かった。
やっぱりやらなきゃよかった。相手は意識もないし、なんだか虚しいし、卑怯だし。ヒーローなのに。ああ、ああ。
*
見慣れぬ景色だ、と意識する前に、顔中にもやもやとわだかまるような不快感に顔をしかめる。飲みすぎた次の日に特有の匂いが纏わりついて、それだけでさらに酔えそうな気すらした。
「うあー……っ」
頭を振ると眩暈がした。ガンガンと、割れそうに痛い。
「くっそ、またやった……」
昨夜のことなら覚えている。今日の視察の予定が夜からになったというので、足取りも軽く、行きつけのバーに向かったのだった。一人優雅に、あくまで嗜む程度に飲むつもりが、ウィスキーを3杯ほど空け、程よい気分になっていたまさにその時、既に一件目で相当飲んだらしいフランスやスペインが乱入してきて、そこから情け無用の飲み比べ大会に発展したわけだった。我ながら、子供か、と突っ込みたくなる理性の手放し方である。
酒を飲むのは気持ちがよい。けれどまさしく後悔先に立たず、というやつで、翌日こうしてひどい頭痛と吐き気に苛まれているときだけは、飲まなきゃよかった、という後悔しか湧いてこないのである。飲んだのは紛れもなく自分なのだから、まったく勝手だとも思うし、ばかばかしいとも思うのだが。
とてつもない後悔に襲われながら、ようやくじっくりと自身の置かれた状況に思いを馳せる段階まで来て、イギリスはさらに後悔することになった。
見慣れはしないが、まったく知らないというわけでもない。自宅の寝室ほどではないものの、何度も入ったことはある。その「何度も」のうちの大多数は、今日のように思い出したくない状況ではあったが。
家の中がしんと静まりかえっているところを見ると、どうやら家主はすでに外出したらしい。昨夜家主がここで寝ているところをまさに襲撃して叩き起こしたのかどうかは判然とは思い出せないが――飲み始めた時間から考えてその可能性が多分に高い――、さぞや迷惑をかけたことだろう。自分がやられたら確実に怒る。
「最低だ……」
酔っ払って二日酔いに悩まされるのは自身の過失だが、同時にこうして大事な弟分にわざわざ醜態を見せつけるかのような行動を取るのは本当にいただけない。無意識だった、というなら、自分の無意識とやらを今すぐ脳みそから引っ張り出して徹底的に洗い直したい。ああ、ああ、いくら後悔しても意味などないけれど。――どうして自分はこうなのか。
あの弟分の前だけではいつだって尊敬される身でありたいのに、自分でこうして台なしにしていては。
より頭痛がひどくなった気分で、イギリスは再びベッドに沈みこんだ。申し訳ないが、どうせアメリカは夜まで帰ってこないのだろうし、仕事は午後からになったのだし。少しくらい長居しても同じことだろう。アメリカには今度美味いものでもごちそうしてやらないと――そんなことでこの度の痴態が取り消されるわけでもないが――ああ、考えるだにやるせない。
「眠ぃ……」
顔をしかめたくなるような酒のにおいに混じって、ほんのりアメリカの匂いがするような気がする。
役得だな、と一瞬考えてしまってから、あまりに表裏一体であったとまた、頭痛に苛まれる。
ああ世界がぐるぐる回る。アメリカが帰ってくる前には、全快してお詫びの掃除くらいしておいてやりたいのだけれど。
あまりに情けないこの身を温かく包みこむ匂いに、満たされた気持ちで目を閉じた。
(09/11/15)
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