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朝起きたら片方が布団に潜り込んでるシリーズ(※タイトル)加米編



 その日の目覚めは実に奇怪なものでした。
 いきなり、空からプラスチックの塊が降ってきたんです。
「……どうしてゲーム機を投げるんだい! まったく君はいつもいつも! 物の扱いが粗雑すぎるんだよ!」
 と思ったらそんな摩訶不思議な目覚めの正体は至極簡単、僕のお隣さんで兄弟で親友、でもってええと……その、まぁ、ステディ、的な……とにかくそんな複雑な関係であるハタ迷惑な男、アメリカの仕業でした。
 僕たちは幼い頃から気心知れた仲なので、彼の訪問にアポイントメントなどというものが存在した例はありません。手紙が電信になり、電信が電話になり、電話が携帯になってもそれは一向に変わりませんでした。そんなわけで彼は今日もいつものように、突然遊びにきたらしいのですが、何分、休日に寝過ごすのは僕の最大の娯楽であったので、彼の来訪時、僕は気づくこともなく寝息を立てていたそうなんです。ここまでは僕にも納得がいきました。騒がしい兄弟を持つと、睡眠時の環境にはあまり拘らずに済むものだからです。些細な物音や明かりなどはまったく問題になりません。僕の至福の睡眠時間は、その時までこうして順調に続いていたというわけでした。
 僕がちっとも起きないものだから、しびれを切らした気の短い兄弟は、何を思ったか僕の寝ているベッドに潜り込んだ、と証言しました。僕が起きるまで一緒に寝て待てばいいと思ったらしいのです。兄弟も大概図太いタチですから、狭苦しい一人用のベッドに二人並んでも、睡眠には支障ないはずでしたが、惰眠を貪るよりは外でスケートボードでも乗り回している方が性に合っている彼なので、いつまで経っても目はぱっちりと開いたまま。彼の言う「いつまで経っても」ほど信憑性のないものはありませんが、僕は頷いて話の続きを促しました。
 することもなく暇になったアメリカは、ベッドに潜り込んだまま、持参したポータブルゲームを始めたらしいんですが、のめり込むうちに、ついつい僕がいることも忘れ、興奮してゲーム機を投げてしまったそうで。
「壊れたらどうしてくれるんだい!」
 挙句、ここへ来て被害者に罪をなすりつけ、赤く腫れ上がった僕の額には目もくれずに、大層なシリコン素材のカバーに納められたゲーム機をさすっています。温和な僕でも我慢の限界です。
「帰れ」
 低く告げれば、僕の声に呼応した愛犬ならぬ愛熊のクマ吉さんが、のそりと部屋の隅で頭をもたげました。必要とあらば、いつでもその怪力でアメリカを追い出してくれそうです。でもアメリカもアメリカで、小さな時から異例の怪力を発揮していたので、勝負は互角かもしれません。
「何言ってるんだい、ここは半分俺の家みたいなものじゃないか」
「その思考回路、意味がわからないよ!」
 僕の声は半分悲鳴のようでした。私的財産侵害の危機なんだから、これって当然ですよね。
 とにかくまったくこの兄弟ときたら、毎回毎回どうしようもなくて、この間も……。

*

 確かに放り投げたゲームがカナダに当たるとは思ってなかったさ。不幸な事故だったけど、原因は俺にもある。今度からはなるべく、興奮してもゲームを手放さないように気を付けるよ。
 でもだからって、せっかく遊びに来た恋人に「帰れ」はないだろう!
 ただでさえカナダはのんびりやで、ちっとも俺をリードしていこうっていう強引さがないから、こうやって俺がきっかけを作ってやってるっていうのに。
 部屋の隅で不貞寝を決め込んでいた白い熊と睨み合いになる。俺が追い出されて、あの熊はカナダと一緒にのんびり昼寝の続きかい? 冗談じゃないよ、そんなの絶対許すもんか。
 カナダにとってどっちが大切な存在かっていうことを、今日こそわからせてやる。
 火花が散った瞬間、盛大なため息が俺たちの間を遮って、開戦の火蓋が切って落とされることはなかった。
 パジャマ姿のままだったカナダは大きく伸びをすると、パタパタスリッパを鳴らしながら、寝室を出て行こうとする。
「どこ行くんだい?」
 俺は置いて行かれまいと、その後を追って寝室を出た。白熊はそのまま部屋に残るようだった。
「あのね、僕は起きたばっかりなんだよ」
 頭を掻きながら大きな欠伸。まったく小さい頃から一緒だからって。遠慮とか恥じらいというものがなくて困る。
「そんなの君が悪いんじゃないか!」
「たまの休みくらいゆっくりしたっていいじゃないか……」
「君はいつもゆっくりしてるだろう!」
 洗面所へ向かう途中もカナダの目は眠そうで、両腕は何か抱きかかえるものを探すみたいに空を彷徨っている。まったくいつまで経っても子供のまんまだ。
「ほら早く! いい天気なんだぞ!」
 カナダが顔を洗ってる最中も、俺は待ち切れず、その屈み込んだ背中をバシバシ叩いてやった。やめてよ、なんてうっとおしそうな声音。
「ホットケーキ作るけど、君も食べるだろ?」
 冷蔵庫から溶き卵のパックを取り出しながらカナダは言った。俺はその言葉を待ってたんだ。
「当たり前だよ!」
「何が当たり前なんだよ……」
 朝は気の済むまで布団の中でごろごろして、それからのんびり時間をかけて作った、とっておきのホットケーキをメイプルシロップでいただく。もちろんおいしいコーヒーも忘れずに。それがちょっとだけ贅沢な、俺たちの休日の始まり。
 これだよこれ。
 最高にいい気分だ。天気もいいし、今日は何をしよう。二人でバスケでもしようか。
「あーあ、食べたら寝直そうかな……」
 ところが俺の計画とは裏腹に、こんなにいい天気なのに、カナダはまだ未練たらしくそんなことを言っている。
 そんなに布団が恋しいっていうなら、たまには俺の方が合わせてやってもいいけどさ。なんせ俺はヒーローだからね!
「えー、じゃあ俺も寝るんだぞ」
 ところが俺のありがたい譲歩は、即座に一蹴された。
「やめてよ、そしたらまた寝れなくなるから」
「なんでだい」
 問えばカナダはまた盛大なため息をついた。
「アメリカ寝相悪いもん」
「失礼だな!」
「昔から、僕の布団全部取っちゃうだろ」
 甘いにおいを漂わせ、温かな湯気とともに現れたカナダ。俺は立てていた膝をお行儀よくテーブルの下に納めて、カナダの差し出すフォークとナイフを受け取った。
「そ……それはカナダがちゃんと半分確保してないからで……」
「はいはい」
 呆れたように言うのが気に食わない。カナダは昔から俺のことをどうしようもない子供みたいに言うけど、俺に言わせればカナダの方がどうしようもない。何事ものんびりしすぎだし、それから、ええと……ええと……。うん、とにかくのんびりしすぎなんだ。
 こうして、ほんわり甘く香るホットケーキでお腹いっぱいになった俺たちは、満ち足りた幸せな気分で、カナダの主張通り再び陽光満ちる寝室へと戻ったのだった。おいしいものをたらふく食べた後の人ってやつは単純なもので、先程までの乾き切ったスポンジのようなスカスカのやりとりはどこへやら、歓談しながら寝室へ向かう様は、絵に描いたような仲の良い兄弟そのものだった。
 今日こそは文句を言われないようにと、注意深く布団の取り分を計算していた俺に、ぎゅっとカナダの腕が絡まって、そもそも身動きが取れなくなるのはそれから十分後のことだった。
 何もエキサイティングな出来事はないけれど、こんなのんびりした休日も、たまには悪くない、かもしれない。俺は少しだけカナダに身を寄せるようにして目を閉じた。
 どうせ俺がまたゲームを投げたりしないようにとか、さもなくばあの熊の代わり、ってだけなんだろうけど。


(09/10/19)

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