*ロマが女の子口説いてるシーンがあります。
 あと、性的ってほどではありませんが、
 兄弟の濃い目のスキンシップがありますので、ご注意ください。











「きゃ、ドロボー!!!」

女性の高い悲鳴があがったかと思うと、人ごみの合間を男が走り出しました。スリに違いありません。しかし後方を気にしすぎて、そのスリは前方不注意でした。二人連れの若い男たちの背にぶつかって、少しよろけてしまったのです。

「…気をつけろっ!」

そんな捨て台詞を残して、スリは走り去っていきましたが、ぶつかった男の一人は何ということでしょう。スリが奪ったはずの、女物の財布を握っているではありませんか。この男、プロのスリに気付かれずに財布をスリかえしたのです。

財布を手にした男は早速中身をネコババ――ではなくて、持ち主の女性のところへとゆっくりと歩いて行ったのです。そして、財布を手渡すと、少し日に焼けた顔に笑顔を浮かべました。

「大丈夫だった?怪我はない?…そう、それはよかった。
 君が魅力的すぎるから、ああいうバカも吸い寄せられちゃうんだろうね。
 まあ、そういう俺もそのバカの一人だけどさ…
 あ、でも俺の狙いは――君のハートだけだけどね」

ああ、歯の浮きまくるこんな台詞。この辺りですらすら言えるのは、彼くらいなものです。そうそう、スリがぶつかった二人連れの頭には不思議なくるんとした毛がありました。


Don't steal my heart!!

「はあ〜。ぜってー行けると思ったのによ…」
「落ち込まないで、兄ちゃん!次があるよ!」
「…お前にだけは、慰められたくねぇ!」

さっきの女性に対するのとは打って変わって、ロマーノは弟を睨みつけました。珍しく揃って散歩していた兄弟は、これまた珍しくトラブルを解決したのです。しかし、トラブルは上手く解決できても、あちらの方はうまく行かなかったのでした。

「ハハ…。まさか結婚してるなんてな…」
「でも、兄ちゃんってやっぱりすごいよ!」
「…何がだよ」
「スリの腕前だよ!全っ然落ちてないね!」

ニコニコと言うヴェネチアーノには悪気はありませんでした。しかし、ここは沢山の人が行き交う往来なのです。ロマーノは自分に、冷たい視線が次々と突き刺さるのを感じました。

「――んなこと、デカい声で言うんじゃねえよっ!」

世間の非難から逃げるように、ロマーノは弟の腕を掴んで裏路地へと引っ込みました。そしてまずは、弟の頭を軽く叩くことから始めます。怒り心頭らしく、目元の座り具合がいつもの倍でした。

「前から思ってたけど…お前、俺のこと絶対バカにしてんだろ?」
「そ、そんなことないよ〜」

殴られた頭を擦りながら、ヴェネチアーノは必死に弁解しますが、ロマーノは聞く耳を持ちません。どこか遠くを見つめて、何やらぶつぶつと呟き始めました。

「いいよな、お前は。絵に貿易…昔からなんだって要領よくやっちまうし。
 どーせ俺はスリぐらいしか特技なんてねえよ…」
「だからそんなこと――…ん?
 でもよく考えたら、スリできるくらい器用なのに、他のことは不器用だよね。
 この間も、掃除しようとして花瓶とか割りまくってたっけ…」

それはまさに、エトナ火山にオリーブオイルをぶっかけるにも等しい――平たく言えば、火に油を注ぐ行為でした。溶岩を撒き散らして噴火する代わりに、ロマーノは弟の肩に手を置いて、狭い路地の壁に乱暴に押し付けました。

「に、兄ちゃん!暴力反対!はんたーい!!」
「…誰が殴るっつった?」

鼻と鼻とがぶつかりそうな距離で、ロマーノはニヤリと笑います。ヴェネチアーノは嫌な予感がしましたが、背後には冷たい石の壁があって、どうしようもありません。そしてロマーノは弟の両頬に手を添えて――。

ゴッ!!!

ロマーノの繰り出した頭突きは見事に決まり、ヴェネチアーノは一瞬目の奥に星が見えた気がしました。頭突きだって暴力に含まれる――と抗議したいところですが、頭部を支配する痛みがそれを許しません。

「――で、誰が不器用でどうしようもないバカ兄貴だって?」
「そこまで言ってないでしょ!?…確かに兄ちゃんの不器用さは、
 滅多にお目にかかれないレベルだけどさ!」
「まだ言うか、この野郎…」
「あ、ごごごごめん!!何でもするから!ゆるして、兄ちゃん〜!」

一言多かったとようやく悟ったヴェネチアーノは、もう一発頭突きを食らう前に、お決まりの台詞を口にしました。これまで幾多の困難を乗り越えてきた、ある意味ヴェネチアーノの最終兵器です。しかし、果たしてロマーノにも有効なのでしょうか。

「何でも…?」
「う、うん!これ以上頭突きされたら、俺、もっとバカになっちゃうから!」
「…それなら、スリ以外で俺の得意なこと言ってみやがれ」
「え?に、兄ちゃんの得意なこと…?」

確か、前にもこんなことあったな、とヴェネチアーノは思いました。しかし前はロマーノの良いところを挙げることが、結局出来なかったのです。さて、二度目の正直と行くでしょうか。

「う〜ん…兄ちゃんの得意な…こと…えっと…」

ロマーノは彼にしては珍しく、辛抱強く待ちました。しかしいくら待てど暮らせど、ヴェネチアーノの口から、『ロマーノの得意なこと』は列挙されなかったの です。ここで、以前のように「お前なんて嫌いだ〜!」と叫んで逃げ出すことは簡単ですが、それではロマーノの腹の虫は治まりません。

「――時間切れだ、バカ弟」

タイムアップを告げる声に、ヴェネチアーノは再びの頭突きを覚悟して、反射的に目を閉じました。しかしロマーノの心は違っていました。何と弟の着ているシャツの裾から、手を滑り込ませたのです。これにはヴェネチアーノも慌てて目を見開きました。

「え、ちょ…に…兄ちゃん!?」
「痛いのやなんだろ?だったら――こうしてやる」

戸惑う弟の脇腹を撫で上げながら、ロマーノは勝ち誇ったように言いました。彼の記憶によれば、ヴェネチアーノはこの辺りをくすぐられるのに弱いはずなので す。小さい頃、本当に幼い頃に祖父にくすぐられて笑い転げていたのですから。だからロマーノは弟を笑い死にの刑にしようと企んだだけで、他意は全くなかっ たのです。

当然ヴェネチアーノだって抵抗しましたが、すでに敵が服の中にまで侵入していては、力も上手く入りません。押し返そうとした突っ張った手は、ほとんど添えるだけになっていました。

「やめて…ってば…!」
「――うっせえよ」

弟の反応がイマイチなので、ロマーノは十本の指を最大限に使って、攻撃をしかけることにしました。筋肉があまり付いていない――ロマーノだってムキムキと は程遠いものですが――せいで、ヴェネチアーノの肌は思ったより柔らかでした。もちろん女性のそれとは全然違うのですけれど。

(…って、俺何考えてんだ?
 俺はこいつを笑い死にさせるために、こんなことしてるんだろうが――)


「にいちゃ、…いい加減に…っ…」

何かに耐えるように唇を噛んで、ヴェネチアーノは辛そうです。きっと今にも爆笑しそうなのだろうと、ロマーノは自分の勝利を確信しました。そして、最後の 一押しと言わんばかりに、記憶の中で一番ヴェネチアーノが弱かった脇腹の上の方を重点的に責め立てたのです。

「…やっ、にぃ…んっ…!」

(おい、何て声出してんだよ?これじゃ、まるで…――まるで?)

本来ロマーノよりも白い肌は、今は朱が差していました。それは笑いを堪えているというよりも、快楽を堪えていると言った方がぴったりに思えるのです。ロマーノはそれに気付いて、慌てて弟から離れました。

すると、すでに自立するだけの力が無かったのか、ヴェネチアーノはその場にずるずると座り込んでしまったのです。しばらくは息を整えるのに精一杯だったようですが、それが落ち着くとロマーノを睨み上げました。

「――…兄ちゃん、サイテー。俺たち兄弟なんだよ?」
「わ、悪い。悪ノリしすぎた…」
「兄弟なのに、それなのに…こんな…!」
「本当に悪かったって!」
「――俺の財布まで取ろうとするなんて!!!」
「だから謝ってるだろ!!!……って、…は?」

目元に涙をいっぱい溜めたヴェネチアーノは、心底怒っているようでした。しかし、その理由はロマーノの予想とは全く違っていたのです。これには、ロマーノも一瞬ついていけませんでした。

しかし、ロマーノが黙り込んでいると、ヴェネチアーノはついに泣き出してしまいました。よほどショックだったのでしょう。――ロマーノに財布をすられそうになったことが。

「いや…だから違うんだって…泣くなよ、おい!」
「じゃ、じゃあ…何だって言うのさ…!」
「そ、それは――」

やましいことなんてないはずなのに、何故かロマーノは本当のことをいうのが躊躇われてしまいました。思惑はどうあれ、弟を啼かせて――もとい、泣かせてしまったことには変わりないのです。

「…とにかく、お前の財布なんて、別にあてにしてねえから!」

ヴェネチアーノの腕を掴んで立たせると、ロマーノは表通りに向かって歩き始めました。しかし後ろからは、まだ鼻をすする音が聞こえてきます。小さく舌打すると、ロマーノは振り返りました。

「おい、バカ弟!さっさと泣き止まねえと、ジェラートおごってやらねえぞ!」
「ヴェ?ジェ、ジェラート?」
「ああ…とびきり美味くて、ほら、えくぼが可愛い子がいるとこの」
「あ、あそこのか!うん、うん、行こう!」

さっきまでの涙はどこへとやったのか、ぱっと顔を綻ばせたヴェネチアーノは、ロマーノの横をすり抜けて、先に飛び出してしまいました。溜息をつきつつ、ロマーノもその後を追いかけます。

早足なのは、弟に追いつくためか、可愛い店員に早く会いたいからか。
それとも――ジェラートで体の火照りを覚ましたいからか。


end



10/2/25
ゆたさんからのリクエスト、
> めちゃくちゃカッコイイロマとイタちゃんが読みたいんですよね。ロマが普通に女の子たちから見て超ヤベェくらいカッコイイ行動とったりするんだけどイタ ちゃん的には何もドキッとかなくて、普通に「自慢の兄ちゃん!」くらいのノリだとなおよいですよね! それから微エロだったりするとなお素敵だと思うんで すよ安西先生。

ってことだったんですが…長いよ!そしてやっぱり意味わかんないよ!(笑)
…けど、リクありがとうございました。(←無理やりまとめる)


 腐れ縁のりょうさんから、いただいたというか、ご覧の通り明らかにお前が対象じゃねぇだろって企画に無理矢理リクエストしました。一万年と二千年前から愛してます…!
 ロマ伊がとっても好物です。伊達なイタリア男なのに、弟にコンプレックスがあって、でもやっぱり弟は大切で、素直になれないお兄ちゃんなロマがとっても大好きです…! そして天然でお馬鹿で八方美人だけど、小さい頃のすれ違いとかいろいろあってなかなか仲良くなれない兄ちゃんが大好きなイタちゃんも…
 やっぱ兄弟っていいですよね…えへへ…

 この春ヘタでのネット活動を卒業、ということで、寂しいので掲載許可をいただきました…! ほんとにお疲れ様でした!






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