響いた二人分の声に、アメリカは「あっ」という顔をした。
そして手の甲で目元を拭うと、胸をそらして誤魔化すように大声で笑いながら言う。
「そうだぞ!アメリカだぞ!」
ビシリッとポーズまで付けたアメリカに、カナダは呆気に取られたようにポカーンとした。
イギリスは頭痛を感じたのか、小さく溜め息を付いてこめかみを揉む。これは前に見た事がある誤魔化しのポーズだった。
その仕草をカナダが心配そうに見つめたが、イギリスは気が付いていない。
目の前の困った子供をどうしようかと考えるのに忙しいのだ。
そんな様子のイギリスに気が付いて、カナダはほんの少しだけがっかりする。腕の中のクマ吉(正しくはクマ二郎)をぎゅっと抱きしめながら、兄弟である筈のアメリカを複雑な気持ちで見つめた。
そのアメリカといえば、最初はイギリスの足元にいるカナダをじろじろ見ていたが、直ぐにそれに飽きたのか、物珍しそうにチャーチルの小さな港を眺めだした。
生まれてから今まで一度もアメリカは他の国に行った事のないので、自分の国の港との違いが面白いと思っているのだろう。その気持ちは分かるし、好奇心旺盛なアメリカが本当に「やりたい!やろう!」と思ったらどう止めてもやるのだという事も、イギリスには十分分かっていた。
しかしそれでも限度というものがあるだろう。
アメリカがいたボストンとカナダがいるこのチャーチルは、隣国とは言え、地図の上でもかなり遠い距離にある。
フランス軍を迂回するように船で進まなくてはいけないので、船ですらかなりの日数はかかるし、その際様々な危険も伴う。本来ならば、このように気軽に遊びに行こうと思う場所ではないのだ。
(だから反対したってーのに)
あまりの無鉄砲な無茶ぶりに、すっかり怒る気力をそがれててしまったなと思う。半分すでに「アメリカだから仕方がないなー」と思いながら、しかしそれでも、イギリスはちゃんと確認しなくてはいけないだろうと口を開いた。
「アメリカ。お前、なんでここにいるんだ?」
静かな口調でイギリスが訊ねる。しかしアメリカはその言葉にびくりと肩を震わせた。どうやら悪い事をした自覚はあるらしい。
「あー、えっと・・・」
アメリカが視線を泳がせ始める。
「俺は来ちゃいけないと言わなかったか?」
「う、うーんと、・・・うん、確かに言った」
「という事はどういう事だ?」
ここが一番肝心な所だ。
「うん、ごめんなさいイギリス。・・・でも、俺もカナダに会いたかったんだぞ」
「アメリカ・・・(喜)・・・」
(あーほんと、アメリカは兄弟思いな素直ないい子だぜ。ちゃんと俺の教育が行き届いている感じだ!)
こっそりイギリスは感動し、しゅんと項垂れ反省した様子の、アメリカの小さな頭を撫でたのだった。
しかし。
(ふー。やっぱりイギリスには「最後は素直に謝る作戦」が効果的なんだぞ!)
アメリカは、内心でうっかりイギリスが聞いてしまったら卒倒しかねない事を思っていた。
そして「付いて来ちまったのは仕方ねーから」と、送り返すことも無く簡単に同行を許すイギリスを見て、嬉しい気持ち半分で心配したりしていた。
(これをカナダにもしたりするのかな?)
つい最近カナダという兄弟を紹介されたアメリカは、それが気になって仕方がなかった。
それを確かめたくてカナダに会いに行くというイギリスに、何度か一緒に行きたいとお願いをした。しかし真正面から頼んでみたが、イギリスは頑として連れて行くことを許さなかったのだ。
危ないからというのがその理由だが、アメリカにしてみればイギリスを一人で行かす方が危険だった。
(イギリスは「ようじしゅみ」だからなぁ)
自分と同じ顔をしたもう一人の子供なんかと一緒にいたらどうなるか、簡単に想像出来そうで怖い。だから今回アメリカは、万が一それを阻止するべく無理矢理ついてきたのだ。
(やっぱり付いて来て正解だったんだぞ!)
小さくなっているカナダを見て、アメリカはニコリと笑った。表面上、それはとても友好的な笑みだった。
「カナダ!あっちで遊ばないかい?!」
「あ、うん。・・・いいよー」
カナダはそれに騙された。
そして、もちろんイギリスもすっかり騙された。
「何だか知らない間に、仲良くなっちまったんだなぁ」
楽しそうに遊ぶ子供たちを見ながら、イギリスも楽しそうに笑ったのだった。
(まだつづいてもいいですか・・・)
BACK
|
|