きみにはあげない


「ヴェー、見て見てドイツー日本ー、似合うー?」
 平和な昼下がり、欧州であった会議は何の進展も見いだせないままお開きとなり、日本は帰国までの短い期間をドイツの家で過ごしていた。お世話になったお礼にと、日本は葛餅の鍋をせっせとかき混ぜている最中で、ドイツはリビングで新聞を広げているところだった。
「そのメガネはどこで拾ってきたんだ」
 似合うかどうかという問いはさらりと無視して、ドイツはさっさと核心に触れた。日頃からお洒落なイタリアのこと、ファッショングラスくらい何度も見たことがあるが、どうも今日のデザインはいまいち、あか抜けなかった。そして妙に使い古した感がある。
「アメリカの忘れ物だよー」
「どうやったらメガネを忘れられるんですか!」
 テンポよく突っ込みを入れた日本に、イタリアはあくまでもマイペースを崩さない。
「なんかね、これ、あんまり度が入ってないみたい」
 だから気付かなかったのだろう、と。
 メガネを持ち上げたり下ろしたり、ひとしきり遊んだ後、鼻梁の上に落ち着けて手を離した。その間、レンズの向こうに透けて見える顔は歪んだり大きくなったり小さくなったりということがなかったから、やはりイタリアの言うとおりなのだろう。
「とにかく、早く、返した方がいいんじゃないか? 帰国されるとやっかいだぞ」
「どうでしょう……度が入っていないなら、アメリカさんもそれほど真剣には探さないのでは? むしろ、ヨーロッパでメガネを新調する心づもりだったのかもしれませんよ」
「ふむ……何にせよ、一度連絡を取った方がいいだろうな、ほら、イタリア」
 ドイツはイタリアの胸ポケットから携帯を取り出すと、電話帳を繰ってアメリカのデータを表示する。発信ボタンを押してからイタリアに手渡してやるという過保護ぶりだが、今更見慣れてしまった日本は、葛餅をかき混ぜる手を決して止めなかった。ここで怠けると、ダマができてしまっておいしくならない。簡単だが、奥が深いのである。
「ヴェー……おかけになった電話は……」
 アナウンスをなぞるように口を開いたイタリアをよそに、ドイツは軽く舌打ちし、また携帯のボタンを連打している。
「それならとりあえずイギリスにでも言付けておけ」
「えぇーっ、俺イギリスやだよーっ!」
 もう発信してしまっているのだろう、イタリアの抗議は意味をなさない。
「あ……おかけになった……」
 イタリアの復唱にドイツは盛大なため息をついた。一方の日本は、だんだんと重たくなってきた手触りに、中火にしていた火を止める。あとは冷やすだけだ。
 いち早く日本の動作の違いを見極めたイタリアが、イライラと携帯を操作し続けるドイツの元を抜け出して日本の方へ駆け寄ってきた。
「できたの?」
「まだです」
 このままでは熱くて甘いだけの、気持ち悪い液体である。
「おいイタリア、とりあえずそれ外せ、調子が狂う」
「そうですね、色男が台無しですよ」
「ヴェー」
 しかしイタリアは、鍋に満たされたどろっとしたものに興味津々で、聞いているのかいないのか。
「マンマのパンナコッタみたい」
「いったいどういう経緯で、このメガネを拾得するに至ったんです?」
 面倒くさくなった日本は、ぬれぶきんであら熱をとった鍋を、えいっと鍋ごと氷水を張ったバットに浸けると、もう一つの小鍋に水と黒糖を入れ、弱火にかけておく。黒蜜を作るためだ。あとは葛餅が冷えるのを待つばかり。本来は水で濡らした型に移すべきであるが、まぁこの際、どうにでもなるだろう。手を拭いて割烹着を脱いで、二人の待つソファへ向かった。
「ヴェー、それがね、それがね」
 コーヒーメーカーのコーヒーもいい具合にドリップし終わっていた。カップに分けて、ソーサーとミルクピッチャー、角砂糖のポットをトレイに乗せる。
「会議の後、会議場に忘れ物しちゃって」
「お前がか」
 呆れきった様子のドイツは、何も入れないコーヒーに口を付ける。イタリアは、くるくるかき混ぜて渦を作ったコーヒーに、ほんの少しのミルクを垂らして、きれいな渦巻き模様を描いていた。その他愛もないお遊びを、昔メイド喫茶の女の子に教えてもらったことを思い出しながら、日本はポットからピンク色の角砂糖を選ぶと、そっとコーヒーに落とす。
「入ったらイギリスとアメリカがいて――」


「ああ、イタリアか」
 会議も終わって用済みの大部屋に、ぽつんと浮かんだ影は、その声からイギリスだと知れる。すぐにその特徴ある眉毛を携えた顔もこちらを向いた。まったく、こんなところでまでイギリスに遭遇してしまうなんて今日はついていない。
 朝から兄と喧嘩はするし会議に遅刻してドイツに怒られるし、資料を忘れたので見せてもらったオーストリアも機嫌が悪かった。スイスなんて、少し舟を漕いだだけで、イタリアの脛を堅い靴のつま先で蹴ってくる始末だ。
 ランチに食べたスパゲッティは茹ですぎだったし、すれ違った女の子はみんなガタイがよすぎた。
「どうした」
 短く用件を問うイギリスの声は、どこか切羽詰まって聞こえた。追ってくる殺人鬼に対して、じっと息を潜めているような、そんな重苦しい緊張感が、天井も高く採光も抜群のはずの会議場を覆っている。どこかねっとりとした、甘く湿った空気さえ流れているようで、絡め取られて、息が苦しい。
 じっと息を詰めたようなイギリスの呼吸は、よくよく聞けば浅く速い。肩は遠慮がちに上下し、頬は気色ばんでいた。そういえば会議の途中にアメリカを怒鳴りつけていたときも、彼はこんな顔をしていた。そのアメリカは、イギリスの背後で、叱られてむっと押し黙っている子供のように、拳を握りしめていた。初めはイギリス一人かと思ったものだが、陰に隠れて見えなかっただけらしい。どこかぎらついて見える眼光がイタリアのそれを、ぱらりと一筋垂れた前髪の隙間から射抜く。今思えばあのとき既に、アメリカはメガネをかけていなかった。
 ケンカしていたのかな。
 最初に思い浮かんだ可能性はそれだった。
 それも、他国の目を気にしないようないつものケンカではなく、深刻な。二人の目は雄弁に、「早く出て行け」と語っていた。
「ヴェ、ヴェー……忘れ物を……」
 まるで尋問のようだ。
 やはり一人で戻ってきたのが間違いだった。ドイツかハンガリーについてきてもらうべきだった。
「何だ」
 鋭く問うたイギリスの背後から、びゅんと一つのペンケースが飛んできた。黒い革に現代的なデザインの押し文様、ロシアに「おしゃれだね、おしゃれだね」としきりに羨ましがられた、イタリアのお気に入りだった。
「これかい」
 条件反射で、地面に叩きつけられる前のそれを両手で受け止めたイタリアが状況を把握するより早く、それを投げた張本人アメリカの、冷たい声がした。
「う、うん。あ、あとそれと、家のカギも――」
 言い募るイタリアに、アメリカは舌打ちで返す。少しばかり荒い息と、額に滲む汗を押し隠すように、彼は軽く首を振った。
 どうしてこんなに邪険にされなければならないのか。意味もわからず縮み上がっているところで、イギリスが座っていた会議机がギシリと音を立てた。
「アメリカ、行くぞ。――場所を移す」
 アメリカは返事をしなかった。ただ、先に立ってイタリアとは反対側に設けられた出口へ向かうイギリスについて出る途中、ちらりとイタリアを振り返って、裏路地に潜む子どもたちのリーダーのような、社会のすべてを憎悪している、と言わんばかりの憎しみのこもった視線を投げたのが忘れられない。心臓が止まるかと思った。
 今でも広義の「大国」のひとつに数えられるとはいえ、こんな風に重苦しい雰囲気の漂う話し合いから、すげなく締め出されることはイタリアにはままあることだった。
 先程も、ちょうどそんな風だった。彼らは端からイタリアに理解を求めていない。関わり合うことを拒絶する。
「なんなんだよあいつら、まったく――ムダに怖い顔しやがって」
 これだから政治だの経済だの、煩わしいことばっかりだ。
 本人たちの前では絶対に言えないような男らしい文句を吐いて、ふぅと息をついた。二人がいなくなった瞬間、議場に爽やかな風が舞い込んだ気がする。ほんのりと汗のにおいがするのは、緊張で汗をかいたからだろうか。上等のスーツが台無しだ。
 なくした鍵は、彼らがいたデスクのちょうど真下にぽつんと落ちていた。会議中にチャリチャリ弄んでいたのが災いしたらしい。
 一緒についている車のキーはドイツと共同開発したものだし(イタリアは、かっこよくてスピードが出て乗り甲斐があればなんだっていいと思っているが、ドイツは電気自動車というところに最近やたらこだわる)、キーホルダー代わりにぶら下げている小さな人形は、どこか愛らしいクリスマス用の木細工で、ドイツのお家芸だった。
 そんな風に持ち歩くと劣化するぞ、とドイツは眉を寄せるけれど、壊れたらまたドイツに作ってもらえばいい、とイタリアは意に介したことがなかった。こんな不思議なセンスの人形はきっとドイツにしか作れない。ドイツのところの、365日クリスマス、を謳うお店と同じに、自分にも毎日クリスマスのように楽しいことが起こればいい。ハンドルの傍で揺れる人形にいつもそんなことを思う。
「よぅお前、こんなところにいたのか」
 その人形をひょいともちあげて、顔の前で再会の挨拶。彼はちゃりん、と鍵を鳴らして応えた。
 しっかりと鍵をポケットに収めて、今度こそ忘れ物はないか、今一度会議室をぐるりと見渡す。異変はすぐに目についた。降り注ぐ陽光を鈍く反射して、所在なさげにぽつんと置かれた眼鏡。
 きれいに折りたたまれてはいない、急いで外して急いで置いたのだろう、という具合だった。
「うわぁー、お前も一人かぁー?」
 気をよくして、光に透かしながら問いかける。
 覗き込んでも、くらりとする感覚はない。試しにかけてみたものの、鏡がないので、おもしろくなかった。
 どうやら大して度が入っていないようだった。これなら普通に歩けそうだが、顔の形に合わない眼鏡は、鼻梁にやや負担を感じる。
「ああ、これ、アメリカのか」
 なんだってこんなところで眼鏡を外したんだろう。これから本格的に殴り合いでも始めるつもりだったのだろうか。おお怖い。
 イギリスなんかと殴り合ったら命がいくつあったって足りやしない。アメリカは本当に大した男だよ、と思いながら、やはりまだほんのり気だるい空気が漂う気のする会議室を後にした。
 家に帰る前に、ドイツのところへ寄っていこう。確か会期中は日本が泊まっているはずだから、3人で話すのも楽しいだろう。


「……いや、そこはのんきにうちに来ないで追いかけるところだろう。間に合ったんじゃないか?」
 頭を抱えたドイツの指摘はもっともである。が、歴史に「もしも」がないように、覆水盆に返らず、零したミルクは元に戻らない、というやつなのである。
「ヴェー! ドイツはね、あの時の二人を見てないからそんな無責任なことが言えるんだよ! すっごく怖いんだからな!」
「へぇー、何の相談だったんですかねぇ。会議が終わった部屋に残って……なんて」
「ロクなことじゃないに決まっているさ」
 ドイツが言い放ったところで、ドイツが持ったままだったイタリアの携帯が軽やかなカンツォーネのメロディを奏でる。当然のようにドイツはそれに応答した。
「イギリスか?」
 相手がイギリスなら、イタリアでは会話にならないと判断したのだろう。賢明だ。
 そろそろ葛餅も冷えた頃だろうか、と日本は様子を見に席を立つ。あまり温めすぎると、黒蜜も焦げてしまう。
「ああ、……と、なんだか苦しそうだが、大丈夫か? なんだ、走ってたのか?」
「なになにー?」
 怖いもの見たさなのか、自分では話したがらないくせに、イタリアはぴたりとドイツの耳の傍に張りついて、会話を漏れ聞こうと躍起だ。それをドイツがうざったそうに軽く手で払うが、イタリアは諦めない。
「そうか? ああ、イタリアがだな、アメリカの眼鏡を拾ったと言って――こらイタリア、痛い。だからお前それ外せ、フレームが当たる」
 うん、いい冷え具合だ。
 鍋の端に軽くナイフを入れて、皿にひっくり返す。多少端がぐちゃりと崩れたが、まぁ味には変わりないだろう。
 食べやすいよう一口大に切って、3人分に盛る。余った分はタッパーに入れて、冷蔵庫で保存できるように。
 きれいな透明の葛餅が出来上がった。
「わかった」
 ピ、と通話を終了した頃には、ドイツはもうほとんどイタリアに圧し掛かられる形になっていた。気にする電話もなくなった今、来たるべき怒鳴り声に備えて、日本は耳を塞いだ。
「いい加減にしろお前は! 重い!」
「だってドイツが逃げるからー」
「痛いと言ってるだろう。さっさとコレ外せ!」
 ドイツは乱暴にイタリアの顔から眼鏡を奪うと、親の敵でも見るかのようにして、およそ丁寧とは言い難い手つきでローテーブルに放った。
「もードイツすぐ怒るんだもんなー」
「怒らせてるのはどっちだ。そんなにそのダサイ眼鏡が気に入ったか?」
 取り分けた葛餅に黒蜜をかけ、きなこをかける。シンプルな甘さがおいしい、涼菓が出来上がった。
 ドイツに怒鳴られたことなど、甘味の前には吹き飛んでしまうようで、再びトレイを運んできた日本に真っ先に飛びついたのはイタリアだった。
「プルプルだー」
 一口頬張って、大げさとも素直とも言える感動を漏らす。作り手冥利に尽きる、とはこういう反応をもらった時に言うのだろう、と日本はその貴重な純粋さに微笑んだ。
「不思議な甘さだねー」
「黒砂糖です」
「ふむ……少し甘さが物足りない気もするが……」
 ドイツにもらったチョコレートの甘さを思い出して、日本は笑う。確かに、落としたてのコーヒーと一緒では、コーヒーに味が負けてしまうかもしれない。
「ビールにもよく合いますよ」
 彼らにとっては水のようなものだ、と評判のビールなら、あるいは。
「そうか、じゃあ早速」
 いそいそと立ち上がったドイツを、イタリアが呆れた目で追う。
「ヴェー、またかよー」
 日本はもごもご口を動かしながら、日本茶が欲しいな、と思う。
 すっかり存在を忘れ去られた眼鏡と、かちり目が合った。彼はきっと、こういう味は理解してくれないだろう。
「おや、どちらへ?」
 同じようにもごもご口を動かしながら、イタリアが立ち上がった。うーんと伸びをして時計を見やる所作につられれば、早い酒盛りを始めるには、いい時間だった。優雅な午後になるだろう。
「ドイツがビール飲むなら、おつまみ作ってあげようかと思ってさ。オーブンあっためてくるね」
「はい」
「テキトーにポテトでいいんでしょー、ドイツー? トマトソースとチーズぶっかけて焼くよー」
「悪いな、あと冷蔵庫にブルストとザワークラウトが……」
「はいはい」
 そういえば、キッチンを使わせてもらったまま片付けていない。
 私お邪魔ですかねぇ、と思いつつ、気のいい二人に甘えている。
 どうせ日本がいようがいまいがイチャつくのだから、関係ないだろう、と割り切ることにもずいぶん慣れた。二人は本当に、自分のことをいい友人だと慕ってくれているのだ。
 徐々にいい匂いが漂い、テーブルが賑わう頃に、来客を告げるチャイムが鳴った。
 準備に忙しそうな二人の代わりに日本が立つ。
「はいはいはい……」
 ガチャリと開けたドアの向こうに、ドイツでは珍しくもない、見上げるほどの長身に、金髪碧眼。
「やあ、日本じゃないか。ここにいたのか」
「おや、アメリカさんでしたか。はい、しばらくここでお世話になってます。アメリカさんはイギリスさんのお宅に?」
 イギリスから電話があったのに、取りに来るのがアメリカで、かつこんなにも早かったという時点で予想はついていたが。
「まあね」
 そっけなく肩を竦めて、アメリカはにこやかに笑った。イタリアの話を聞くと、今にも喉笛を掻き切りそうな野蛮な大男のようなイメージだが、実際日本と相対するアメリカは全然そんなことはない。ただの空気の読めない大きな青年だ。
「なんだかいい匂いだな。チーズ?」
 奥が気になってしょうがないという顔で、アメリカは首を傾げた。さすがは大食漢だ。そういえば会議中にもフライドポテトをせわしなく口に運んで怒られていた。
「ああ、まだ早いですけど、宴会が始まってしまったようです」
「イタリアの料理はおいしいよね。俺、チーズとか大好きだぞ」
「はい、私も。せっかくですしアメリカさんも上がって行かれます? お二人にお聞きしましょうか?」
「ほんとかい? いやーもう腹ペコでさ……と、そうだ、いけない。せっかくだけど……今日は、やめとくよ」
 ぱっと顔を輝かせたアメリカだったが、次の瞬間には、ぐー、と鳴り響く腹を隠すように苦笑した。 
「……おや」
 その苦笑には、なんだか苦いものだけでなく、甘いものも含まれていたような気がして、自然日本の口角も上がってしまう。アメリカの顔がどこか幼く、いつもより包みなく感情を表しているように見えるのは、きっと裸眼であるせいだろう。
「いや、なんかさ、イギリスが、朝からキッチンで何か闘ってたから」
「おやおや」
 じゃあ、今夜はごちそうですね、と笑うと、アメリカはきまり悪そうに頷いた。その拍子に、手に持った不自然なバスケットの存在をようやく思い出したのだろう、ひょいと片腕を上げて指し示してみせた。
「あー、あとこれ、イギリスが持ってけって言うから持ってきた……その……スコーンなんだけど、どうせ君たちは、いらないだろ?」
「え……ええ、でも」
 いつもいつも、自身の焼くスコーンを、容赦なくマズイマズイと言われ続けて涙目になっているイギリスを思い出すと、せめて自分くらいは笑顔で受け取らなくてはいかんのではあるまいか、と変な義務感に襲われる日本である。
 話しているところへ、いまさらながらにイタリアが顔を出した。玄関で立ち話などして、外の冷気が中へ入ってしまっただろうか。
「あ、アメリカだー」
「やあ、悪かったね、わざわざ連絡くれて」
「はい、メガネ」
「どうも」
 受け取った眼鏡を軽く拭いて、顔にかけると、もういつものアメリカだった。
「なんか甘い匂いがする……」
 目敏くバスケットに気がついたイタリアが、くんくん、と鼻を寄せる。
「あ、ああ、これは……」
「ひょっとしてお菓子?」
「そうだけど、イギリスの作ったスコーンだぞ」
「イ……イギリス……」
 よほどのトラウマでもあるのだろうか。イタリアは今にも吐き出しそうな顔をしていた。そういえば、大戦中もさんざん泣き喚いて本国に送還されていた気がする。
 思い出に浸っていた日本が我に返ったのは、アメリカが急にバスケットを抱えて怒鳴り出したからだった。
「……そんな顔する奴にはあげないよ! ほら、返せよ俺が食べるんだから! まったく失礼な奴だな! だいたい、あの人は俺のために焼いてたのに、急に君たちが連絡寄越すから、君たちに回すから俺には食うなって……あ……」
 怒鳴られ始めた途端、イタリアはぴゃっと奥へ引っ込んでしまった。あらかた、いい感じに飲み始めているドイツに慰めてもらいに行くのだろう。日本はといえば、イタリアの不躾な表情についつい言葉が過ぎてしまったらしい、常にないアメリカの反論に、笑いが抑え切れず、怖がるどころではなかった。
「……なんだい、日本」
「いいえ、どうぞ、私たちは私たちで、おいしいもの食べてますから、ご遠慮なく、って」
 どうにか笑い出さずにそこまでを言い切ったところで、すっかり震え上がって隠れてしまったと思っていたイタリアが、廊下の奥から顔をのぞかせて、調子に乗って付け加えた。
「やっぱりこういうのって、『おいしい!』って言ってくれる人に食べてもらうのが、作り手も料理も一番幸せだよ。みんながハッピーハッピー! フェリーチェフェリーチェ!」
「べ、別においしいなんて言ってないだろ!」
 もう一度アメリカが恫喝すると、今度こそイタリアは見えなくなる。ふん、と鼻を鳴らして、帰ろうと背を向けた友人を、日本は呼び止めた。
「そうそうアメリカさん、会議の後はお楽しみだったみたいですね?」
「……イタリアが言ったの?」
「イタリアさんは、ただ怖がってただけですから、ご心配なく」
「そう。それはよかった」
 言うなり、アメリカは踵を返した。ゆっくりしていけばいいのに。
 まあ、あれだけ、普段押し隠している感情をあらわにされたのだ、きまりも悪かろう。
 顔、赤いなぁ、と思いながら、がしがし頭を掻く背を見送る。
 静かに戸を閉めたところで、背後から明るい声が飛んできて、日本は笑った。
 鼻筋にうっすら残った眼鏡の痕が気に食わなかったのか、ドイツに鼻をつままれたままの状態でイタリアが日本を呼ぶ。こちらもすっかり、遠慮なくいちゃついていた。
「日本日本ー、ザワークラウトにワサビ入れたら美味いかなー」
「えー……それはどうでしょう……」
















 コーヒーに渦巻き作るやり方を、メイド喫茶(でもない萌え系喫茶)のお姉さんに教えてもらったのは私です(おい)。レディス料金がやたら安くて感動したのは私だけですか。というか男性陣がぼったくられすぎですね。

 独占欲が見えちゃったのはむしろ独さんのような気がします…ごめんなさいごめんなさい…
 イタちゃんを書くのが楽しかったです。イタちゃんは皆から愛されてしかるべき! っていうのがなんだかちょっぴり分かった気がしました…

 自分はボロクソ言うくせに、他人が悪く言うのは許せない、そんなメリカが書きたくてしょうがなかった欲望がいま満たされました…v しあわせーv(お前の欲望かよ!)

 たま様、こんな米英の出てこなさすぎる米英でごめんなさい! 大変お待たせいたしました!!!!


(2009/3/4)



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