少年よ大志を抱け



 はじめまして! この度ついに壁紙ソロデビューを果たしたシーランド君なのですよ! え? 後ろの? ああ、あれはただのマネージャーです。
 ちょ、ママの国花刺すのやめてください!
 もう、先だっては国民一人のエセ無人島がイギリスのまゆげ野郎から独立宣言したそうですが、シー君の話題性かっさらおうったってそうはいかないですよ……!
 シー君は、国土は狭いですが、なんてったって国民は四人です。負けません。六十年もの歴史があります。
 しかも一部の情報によると、巨大ロボにもなれるですよ! まぁシー君自身もまだそのオマケ機能は発見できていないわけですが、いつか絶対に巨大化スイッチ探し出して見せます! 覚悟するですよイギリスの野郎! ふははははは!
「だから、お前は部屋で大人しくしてろって言ってんだろ!」
 ひょい、と物のように摘み上げられて、シー君は足をばたばたさせました。当然、未来のG8シー君にこんなことする不届き者はひとりしかいません。
「シー君の部屋はイギリスの野郎なんかに与えられたものじゃありません! 自力で領土拡大していくのですよ!」
「だからってうちのリビングでも乗っ取るつもりか? 勘弁してくれよ……」
 ふん、昔どれだけブイブイ言わせたか知らねーですが、こんなお子様に翻弄されるとは大英帝国も落ちたものです。この調子でシー君もG8入りして、ついでに国連の常任理事国にもなってやるですよ。
「ほら、今日は客が来るからって言ってんだろ。お前の相手はしてやれねーんだよ、悪いけど」
「客? G8ですか?」
 悪いですけど、イギリス連邦ごときで小さく収まってる国に用はねーですよ。あ、なんか一人くらい連邦の中にG8がいた気もするですけど、まあシー君には関係ねーです。
「ほら、いい子だから。スコーンやるから」
「いりません」
 危うく生物兵器を押しつけられそうになって、シー君はべしりとイギリスの野郎の手をはたき落としてやったですよ。
 ぽとりと床に落ちた石みたいな物体が、ころころ廊下を転がって……こつん、と誰かの足に当たったのが見えました。ん、誰だろう。
「アメリカさんじゃないですかー! ついに兄弟仲なおしたですかー?」
 イギリスの野郎に抱え上げられたまま見ると、いつもはでっかく見える超大国アメリカさんが、同等くらいに見えて、シー君はちょっぴりいい気分になりました。
「ってちょ、何食べてるんですかー!」
 さすがイギリスの野郎の弟だけあって、しつけがなってない印象のある超大国アメリカさんですが、今日も登場早々びっくりな行動に出たですよ! さすがのシー君もびっくりしました!
 まさかあの生物兵器を平然と口に含める勇者がいたなんて……さすがアメリカさんです……!
「いや? 転がってきたから。やあイギリス。相変わらず子育てヘタっぷりを前面に押し出してるね」
「お前、呼び鈴くらい鳴らせっていつも言ってるだろ! 床に落ちたもの食うな!」
「君の作品なら、床に落ちてようがいまいが大した違いはないよ」
 まずかった、と言いながらごくんと最後の一口を嚥下して、アメリカさんは首をかしげてシー君をじっと見つめてきました。
 ちょ、そんなに見つめられたらシー君恥ずかしいですよ……! イギリスの野郎と違ってまゆげも太くないし、超大国らしい逞しい体つきに、機能性抜群のTシャツ・ジーパンという出で立ち……やっぱり超大国は一味違うのですよ!
 常にもごもご何か詰めて動いてる口が、小動物のようで――実際全然小さくないですけど――たまらなく庇護欲をそそるのですよ! ああ、なんか食べモノ与えてあげたいのですよ!
「イギリス、その子は、ずっとここにいるつもりなのかい?」
「あ、悪ぃ、客が来るから部屋にいろって言ったんだけど……」
「ふぅん? まあいいや。それより、お腹がすいたぞイギリス! あのスコーン、まだあるんだろう?」
 シー君からしたらとんでもないことをさらりと言って(さすが超大国なのですよ!)アメリカさんはさっさとリビングのソファに腰を下ろしました。
「あ? しょうがねぇなー」
 いそいそとキッチンに消えたイギリスの野郎にやっと解放されて、シー君はアメリカさんの隣に座ってみました。
 空の色をそのまま映したみたいにきれいな瞳の色と、きらきら輝くハニーブロンド、整った顔立ちに気取らない所作。
 どれもが、シー君の理想にぴったりでした。
 始めは、イギリスの野郎に一泡食わせて独立した最初の弟分、ということで単純に「グッジョブ!」とか、尊敬の気持ちを抱いていただけでしたが、イギリスの野郎があまりにアメリカさんの魅力を毎日毎日語ってくるので、ついにシー君にもそのほとんどが言えるようになりました。
 恐い映画を見ると一人じゃ寝られなくなるとか、春が大好きだとか、お菓子はカラフルな方が好きだとか、食後にはアイスを食べないと気が済まないとか、冒険に出かけるのが大好きなおちゃめさんだとか。
 シー君もいつか大きくなって、アメリカさんを幸せにしてみせるのです。
 ぼーっとアメリカさんの横顔を見つめていたら、ふいに、どこか幼さの残る顔がこちらを向きました。思わずシー君は、びくりと居住まいを正してしまうですよ。
「君って、ほんとにイギリスにそっくりだね」
 いつもなら、そんな失礼なことを言ってくる国にはもれなくシーランドビームを食らわすのですが、小首を傾げたアメリカさんがあまりにかわいらしかったので、シー君は黙っていました。
「……イギリスが小さい頃って、こんなだったのかな?」
 知らねーですよ、とシー君は心の中で言いました。
 さっきからアメリカさんってばイギリスの野郎のことばっかりで、ちっともシー君のことを見てない気がするです。
「ちょっといいかい?」
 アメリカさんはしばらく何か考え込んだあと、徐にシー君に近づいてきました。ちょ、ちょちょちょっと……!
 そんなに近づいたら、シー君だって男ですよ、何するか……!
 ぎゅ。
「あー、なんか最高に愉快な気分だよ」
 よし、イギリスいい子いい子―、だなんて。
 シー君イギリスの野郎じゃないですよ。そりゃ、ちょっとまゆげは奴譲りかもしれないですけど。完全にシー君、おもちゃにされてるですよ。
 DDDD、と謎の擬音がアメリカさんの頭上を飛び交ってるのが見えます。
 思わずむぅっと頬を膨らませたら「アメリカお兄ちゃんだぞー」なんてぷすっと頬を潰されました。
 こ、こんなはずじゃ……。
 シー君だって、シー君だって大人になれば、アメリカさんだって思わず惚れちゃうようなかっこいい男になるですよ!
 今に見てろですよ!
「ちょ、何してんだアメリカ!」
 キッチンから戻ったイギリスの野郎が、べりっとシー君をアメリカさんから引きはがしました。
 よかったような、なんだか寂しいような……。
 ああ、アメリカさんの胸板、やわらかくてあったかかったなぁ……。
 いい匂いだったし。お菓子の甘い匂い。
「えー、何って。弟同士が仲良くしてた方が君も嬉しいだろう?」
「そ、そうだけど……何も俺がいるときに、二人して俺をハブんなくてもいいじゃねぇか……せっかく茶も淹れたのに……!」
 お前は今日、俺に会いに来たんだろ、とでも言いたげな態度と、さっきのアメリカさんの「イギリスいい子いい子ー」がひどく癇に障ったので、シー君はイギリスの野郎の脛を思いっきり蹴ってやりました。
「痛っつ! 何すんだシーランドこの野郎!」
 蹲って身悶えるイギリスの野郎は、ちょっと涙目なのですよ。ふん、いい気味ってもんです。
「宣戦布告ですよ! イギリスの野郎! いつかシー君はイギリスの野郎より絶対絶対大きくかっこいい男になりますから!」
 そのままバタバタと、シー君は自国の領土に――イギリスの野郎がケチくさくも物置として使ってた部屋くらいしか提供してくれなかったですよ。他に客間とかいっぱい余ってたのに――戻りました。
「相変わらず君は子どものしつけがヘタだな!」
 DDDD、と相変わらずアメリカさんは楽しそうに笑っていました。
 見てろですよイギリス。その笑顔も、いつか絶対にシー君のものにしてやりますからね!
















 わざわざ受け攻めをお聞きしたのに、あまり関係のない出来になってしまって大変に申し訳ございませんでした…orz
 シー君が落札される前ということで……
 夕霞さまへ、リクエストありがとうございました!


(2008/7/23)



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