「……ですよねぇ、って、聞いてますかスーさん!」
「ん」
 フィンランドは、頑なに「ん」しか言わない傍らの男に嘆息した。
 先ほどから、重いだろうから代わりましょうか、と言っても、スウェーデンはカメラのスイッチを切ろうとはしない。挙句に、フィンランドのカメラさえ「重ぇだろ」と言って取り上げてしまったのだ。
「ドイツー、次アジアクラスのお化け屋敷行こうよ」
「またお前は……怖いくせに」
「そんなことないよ! 俺お化けなんてへっちゃらだよ!」
 前方二メートル先で、微笑ましい言い合いをしているのはエントリーナンバー2のドイツ・イタリアペアだ。昨年の優勝候補でもあり、文化祭中も一緒にいる確率が高いことは分かっていたから、テレビクルーの分担決め会議でもかなりの人気度であった――誰だって楽はしたい。モメにモメた末、編み出されたのは「くじ引き」という手法で、運がいいのか悪いのか、フィンランドはスウェーデンとともにこのペアを担当することになってしまった。正確に言えば、ドイツについたのがスウェーデン、イタリアについたのがフィンランドだが。
 確かに楽は楽だ。このペア担当になった特権を最大限に生かしていると言える。ただこの二人に遅れないように歩いているだけで、時給850円。けれどスウェーデンにばかり責務を押しつけている罪悪感とか、隣の巨体から感じる無言の重圧とか――本人がどう思っているかに関わらず、この状況下におとしめられたら、誰だって顔色を窺ってしまうと思う――つまり、まったく居心地がよろしくない。
 せめてイーブンに仕事を分担すればいいのだけれど、スウェーデンはそんなチャンスさえ与えてくれない。あとで多大な金銭を要求されたり、腹いせに殴らせろとか言われたりはしないだろうけれど、それでもものすごく、居心地が悪い。
「またまたそんなこと言っちゃってー、ドイツの方が怖いんじゃないの?」
 イタリアは盛大な拳骨を食らい、しばし涙目のまま押し黙った。
「誰がそんなもの怖がるか! ただなんというかだな、アジアクラス連中の言う『お化け』は普通の幽霊モノじゃないというか、思考回路が得体が知れないというか……」
 ドイツは一旦、思い出を探るように言葉を切った。
「ほら、前にあっただろう、夏に日本が『百物語しましょう!』とか言って……」
「ああ、あれは確かに怖かったね……日本が」
「日本が、な」
「いつもの日本じゃなかったよね」
 この放送をばっちり画面に食らいついて当の日本が見ていることも知らず、二人は半ば失礼な会話を続ける。
 よし、お化け屋敷に入ったら、今度こそカメラを代わってもらおう、とフィンランドは決意した。
 あんまり上の方から撮ると仕掛けがわかちゃって臨場感がないですから、とかなんとか言い訳すれば、粘れるような気がしていた。
 しかしここで、またも二人の(四人の)予定は狂うことになる。
「ヴェスト! ここで会ったが百年目だぜふははははは! テメェだけ二年もカメラに追い回されて注目集めようなんて生意気なんだよオラァ!」
 それもこれも、唐突に曲がり角から現れた男子生徒が、いきなり衆目の的となるような大声を上げたからである。カメラがくっついているというだけで既に好奇の目に晒されているというのに、まったくよくやるものだ。
「……またお前か……」
 頭が痛い、と言った体で視線を外したドイツに、構うことなくプロイセンは突っかかっていく。つっかけ履きにした上履きがぱこぱこと音を立てた。















 ……やっと学ヘタにプロイセン出せたー!
 小学校の時「プロセイン」だと思っててゴメン。


(2008/3/26)



BACK








Copyright(c)神川ゆた All rights reserved.
http://yutakami.izakamakura.com/