その後もプロポーズ寸劇はテンポよく続いていく。 しかし皆その場で慌てて考えているからか、えらく陳腐なセリフばかりだ。本当はもっと気の利いたクッサーいセリフだって日頃から用意しているのだろうけれど、それは本番に取っておきたかったり、いざとなったら出てこなかったり、そういうものみたいだ。 「エントリーナンバー7、俺とロマーノ! いっきまーす!」 威勢良くスペインさんが叫んだ。相方のロマーノさんは、半ば引きずられるようにしてステージ中央へやってくる。 「ロマーノロマーノ、俺と結婚したってぇ!」 弾むスペインさんの声に対して、ロマーノさんの声はそっけない。 「……3食昼寝とパスタ付き」 「酷っ!」 あれ、どこが酷いのかな。あれって結婚してやる者として当然の要求よね? 苦労してばっかりの生活なんていやだもん。 私の疑問をよそに、スペインさんは「うわぁあああ、フラれたあぁ」と落ち込んでいて、最前列の席からマイクを握った教頭の声が飛ぶ。 「続けて下さい、スペインくん」 スペインさんはぐすぐすとしゃくり上げながら背後のカップルたちを振り返る。 「え、エントリーナンバー8、リトアニア、ポーランドペア……ぐすっ……」 「うわ、ちょ、引っ張らないでよポーランド!」 あ、さっきのロシアさんの 「リトは黙ってるし! 俺が言う!」 「わかったよ……もう……」 さっき舞台裏で、アイスについて盛り上がってたポーランドさんは、ぐ、と誰かを睨みつけるように、マイクの前に立った。 「リトは誰にも渡さんし!」 いっつもへらへらしてる人がびしっと所有権主張すると、すっごくグッとくるんだなぁ、なんて思ったりして。 「ポ、ポーランド……」 ほら、リトアニアさんだって、きっとそう思ってる。 「だってリトがいなくなったら、電球変えれんもん!」 にこ、っと笑った顔がバカっぽくても、きっとリトアニアさんにはそんなの関係ないんだろうな。 だんだんみんなも慣れてきて、なごやかなプロポーズが続く中、やたらと不機嫌な顔で現れたのは、あ、さっきの12番の人たちだ。 「ではでは、エントリーナンバー12、トルコ、ギリシャペアどうぞっ!」 「あー……」 どうしようか、という様子で、ぽりぽりと頭を掻く仮面の人、トルコさんを押しのけて、ギリシャさんがマイクの前に立った。 「トルコ! 俺にアイスを!」 やけに真剣な目でギリシャさんが言った瞬間、場内が笑いに包まれる。 「それ言ったらおしまいだろテメェ!」 対するトルコさんの返事というかツッコミも、一緒に繰り出されたストレートも、それをサッとかわしたギリシャさんの身のこなしもとにかくテンポがよくて、なぜだかわからないけれど、軽く拍手まで起こった。 会場は大盛り上がりの中、第一次選抜とやらは終わったらしい。先生方が協議する間、やっと普通の前夜祭らしく、生徒有志によるバンド演奏やコントなどが行われる。 舞台裏に戻ってきたまゆげ野郎はまだ不貞腐れているらしく、アメリカさんもそんなまゆげを笑っていた。 「それでは皆さん、お待たせしました! ついに、栄えある第一次選抜通過カップルを発表していただきます。結果はこちらの紙に書いてあるとゆーことで、発表する俺もドキドキしてます」 全カップルは再び舞台に戻っていき、やっと静かになった舞台裏。 「それでは、発表すんでー! 第一次選抜を通過した栄えある五組のカップルは、エントリーナンバー1、2、3、6、10、以上ぉ! ……って俺とロマーノ落ちてるやんっ! なんでぇええ!」 泣き崩れるスペインさん。 っていうかなんであれであのまゆげ野郎たちが通ってるわけぇ? スペインさんたちだって、結構よかったと思うけど……。 先生たちの趣味を疑うわ……。 パチパチと、拍手が起こる会場。けれど一部の人たちの関心は、そんなところにはないみたい。 「えー……、いつまでも落ち込んでないで、みんなお待ちかね、第一次選抜のMVP、人呼んで愛の伝道師の発表に移りたいと……ぐすっ……」 「しっかりしろよスペイン!」 呆れ顔のロマーノさんから叱咤の声が飛ぶ。こちらは、選ばれなくてちょっと残念、ちょっと安心、といった複雑な顔。 「うん、俺がんばるでロマーノ! ――本年度の愛の伝道師は、捨て身の大胆発言で女度をアップした、ハンガリーさんに決定いたしました! 賞金の二十万です、おめでとー!」 わぁあああっと会場が盛り上がる。 スポットライトを浴びたハンガリーさんは、ぱちくりと眩しそうに瞬いた。 「え……あ、わ、私ですか? ありがとうございます」 「賞金は何に使いますか?」 「えー……そうですねぇ……新しいフライパンでも買おうかな……」 「フライパン?」 「はい! 前のはへっこんじゃって!」 「へー……相当使い込んでるんやな。業務用コンロで火責めにでもしたんでしょーか。さすが学園寮のマドンナ、ハンガリーさんですね! とにかくおめでとーございます!」 なんだか一番欲のなさそうな人に二十万円が行ったみたい。舞台の上の人には不服そうな顔もちらほらだけど、よかったんじゃないかな。 ああ、寮に帰ったらちょっと触らせてもらおう二十万円……さ、触るだけ……! (2008/2/17)
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