{文化祭まであと1日〜前夜祭〜} アメリカ、自由の国。 ここニューヨークに校舎を構える世界W学園もまた、世界中から様々な価値観をもつ生徒たちが集っているわけで、ベストカップル賞エントリーカップルの半分以上を同性同士が占めていても何も文句はないらしい。世界って広いですね、おじいちゃん……。 私は全頁カラーのオフセット印刷、表紙にも趣向を凝らした文化祭パンフレットを握りしめて校門付近に設営されたテントでパイプ椅子に腰かけていた。 前夜祭といえば生徒だけでやるものだと思っていたけれど、日本さんいわく「最大のイベント」であるベストカップル賞の第一次選抜が行われる前夜祭は、なんと一般公開もするらしい。 我々生徒会はその受付に駆り出されているわけだ……っていうか私生徒会じゃなくない? なんでこんなに染まってるの? それというのもみーんな、あのまゆげがエントリーされて何かとそちらの方に強制連行される穴を私が埋めているからで、今じゃ「生徒会(代理)」と書いたタスキも、授業はナシで準備に充てられていた午前中ほどは気にならなくなってしまった。 さっきから座りっぱなしでケツが痛いよ……と乙女らしからぬことを考え、軽く腰を浮かせたところで、夫婦だろうか、金髪の男女が談笑しながらこちらへ近づいてきた。 「外来の方ですか?」 もう顔に張り付いてしまった営業用スマイルで問いかける。 「いや、ここの生徒の家族なんだ」 答えた男性の顔には、どことなく見覚えがある気がする。誰だろう。 「ああ、ではご家族用のチケットを拝見いたします」 「はい」 セキュリティの関係上、わが学園の文化祭はチケット制だ。各生徒に家族用2枚と外来用2枚のチケットが配布され、それ以外には、受験生とその保護者、学校から直々に招待状を送られた来賓、ご近隣の方々しか入れない。 「はい。結構です。こちらパンフレットになっておりますのでお持ちください」 流れ作業的にチケットの「前夜祭」分を切り取って、パンフレットを2冊渡してから、チケットの半券には、それを融通した生徒の名が記されていることに気づく。 ふと気になって見てみれば、2枚ともに見知った名前。 「アメリカさんの家族……ってことはまゆげ野郎の? って蒸発したんじゃ……」 談笑しながら講堂の方へ歩いて行く夫婦の女性の方は、まゆげにどことなく面影が似ている気がした。 「最近の学校は、おもしろいことするんだねぇ」 「優勝は絶対うちの子たちよね。そしたらイギイギに、アイスちょっと分けてもらおうっと」 「ハハハ……俺らに似てラブラブだからなぁ」 「もう、いやだアナタったら!」 …………。 ……うーん、まゆげの家庭事情には、深く関わらないでおこう。 夕闇が深くなって、ふと腕時計を見やると、もうすぐ六時だ、前夜祭が始まる。 すると突然、ポン、と肩を叩かれた。 「フランスさん」 「俺の会場警備と代わろうぜ。セーシェル前夜祭初めてだろ。見てこいよ」 「あぁ、いい加減ケツ痛かったところです。いいんですか?」 「おじさんは立ちっぱなしで腰にきてね……」 ああ……と二人で微妙な笑みを交わし合った。 (2008/2/1)
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