{文化祭まであと7日} 「イギリス、アメリカ……会長、アメリカくん……。……喜べ! 軽く50票は超えたぞ! って、あれ? イギリス?」 漫研の部室で話を聞いた時には、自分には関係ない関係ないと思ってはいたけど、まさかこんな地獄の開票作業が待っていたとは思わなかったぜ……ちくしょう。 栄養ドリンクの匂いが充満する生徒会室は、無数の紙切れに溢れかえっていた。 「イギリスくんならそこの隅で『死にたい死にたい』呟いてるけど?」 滅多に顔を出さない生徒会の一人、ロシアさんも、この日ばかりはちまちました紙切れ相手に格闘していらっしゃる。な、なんか無性に怖いんですが……。彼の負担を増やさないように、私も頑張って開票せねば! 「冗談じゃねーある。なんでこんなくだらない開票作業で夜八時まで残らなきゃいけねーあるか」 「それは、イギリスくんがまったく手伝ってくれないからだよねぇ」 そのまゆげの分を私が今一身に受けています。 「俄羅斯も何、さっきから我の開票した分を、さも自分がやったかのように移動してるあるか! そして未開票分をこっそり押しつけるなアル! 全部バレてるあるよっ!」 「えーやだなぁ、僕たちどうせ一つになるんだからいいじゃないか」 ああもう、ホント怖いよこの人。 ロシアさんには関わらないようにして、私は黙々と目の前の紙をめくっては記録していく作業を繰り返す。 「ほらほら急いで! エントリーカップルは明日までに公表して、それでもって明日中にパンフ用の写真撮ってコメントもらって、印刷屋に出さなきゃいけないんだからさ」 「さっきからウォッカ飲んでるお前が言うなアル!」 「やだなぁ、ウォトカは僕のエネルギー源だよ? ……で、とりあえずイギリスくんは今のうちに写真撮っちゃおうか? 面倒くさいしね」 言うが早いか、ロシアさんはどこから出したのか、生徒会、と白のポスカで書かれた高そうな一眼レフを構え、青ざめた中国さんとフランスさんが、暴れるまゆげを抑えつける。 「いやだあぁぁ! 離せぇええ!」 「はいはい。毎年そういう人が二、三人はいるんだよね……。でもね、そんなんで屈してるようじゃ、この学園の生徒会なんて務まらないんだよ?」 にこやかに威圧感を発するロシアさんがシャッターを切って、我らが生徒会長は、どうやら涙目の写真を全校生徒のみならず、卒業生、ご近隣の皆様、受験生、父母の皆様とそのご家族に晒さねばならないらしい。パンフレット冒頭の「生徒会長の挨拶」とはずいぶん違う写真である。 「コメントは『いやだあぁぁ! 離せぇええ!』でいいかな」 無邪気に言い放ったロシアさんに、さすがに不憫に思ったのか、フランスさんが「それはちょっと……」とまゆげを解放した。中国さんに至っては、泡吹いて倒れそうなまゆげの背中をさすってやっている。 「うぅ……ちくしょう……なんで俺とアメリカなんだよ……」 マジックで大きく「アメリカ・イギリス」と書かれたダンボールに入った紙切れの山をぐしゃっとつかみながら、まゆげはぼやいた。 「いや、なんでって、お前ら付き合ってんだろ?」 気の毒そうに言うフランスさん。 「なんでバレてんだよぉォォ! ……って違う! 付き合ってねぇって! バカァ!」 今までロシアさんが怖くて黙っていたけれど、思わず口を開いてしまった。 「え、そうなんですか」 途端、呆れたような空気が生徒会室に流れたけれど、だってだって、アメリカさんは弟だって言ってたじゃないっスか! こんなに票が集まったのだって、弟に逃げられたブラコンまゆげをからかってのことなのかと思っていたのだ。それがなんで、付き合うだのなんだの言う話になってるんだろうか。 「だって付き合うって……手ぇつないだり一緒に帰ったりデートしたりキスしたり? 映画館で人目も気にせずいちゃいちゃちゅっちゅしたり? 今日うち親いないんだ泊まっていけよで勝負下着引っ張り出してみたり? それからそれから……」 まゆげが本格的に泣きそうな顔をしたところで、フランスさんが静かに肩に手を置いた。 「セーシェル……それくらいにしてやりなさい」 (2008/1/28)
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