{1758年 オハイオ川流域}

 その後もフランスはアメリカ大陸において、イギリス軍と激突を繰り返した。
 初めは泣いて守ってもらうしかできなかったアメリカも、約100年の戦いの間に徐々に体格もよくなり、武器の扱い方にも慣れて、立派にイギリスの手助けができるようになった。
 それが本当に本当に誇らしくて生意気な口をきくと、昔の記憶なら、イギリスは嬉しそうに返したはずなのに、なぜか今回は沈んだ反応しか返ってこない。
 本当に、どうしたんだろう。
 自分が変な手紙を書いたりなんだりと歴史をいじくって、何かおかしくなってしまったのだろうか。
 つまらないので歌を歌ってみる。イギリスの沈んだ顔は見たくなかった。
 対岸にいたフランス軍の攻撃は今は止んでいる。
「Yankee Doodle went to town, a-riding on a pony; Stuck a feather in his cap and called it macaroni」
 昔この戦争でともに戦った折、イギリスが自分の装備のつたなさに笑って歌った歌だったが、アメリカはこの歌が好きだった。
 アメリカが歌うのを聞いて、はっとイギリスが顔を上げる。
「その歌……」
「うん?」
「誰に聞いたんだよ。うちの兵士が歌ってたか?」
「……まあね」
 ――昔、君が教えてくれたんじゃないか。って、“君”に言っても知らないか。
(――お前ホントでかくなったなあ)
(もうイギリスに守ってもらわなくても平気かな)
(バカいえ、うちの部隊じゃこんな歌が流行ってんだぞ)
(えー、なんだよYankee Doodleって。俺のことかい?)
(もっとマトモな軍作ってから言えってさ)
(こんな軍でもフランスに勝てたんだから、Yankee Doodleで結構さ!)
「Yankee Doodle Keep it up, Yankee doodle dandy. Mind the music and the step. And with the girls be handy!」
 続きはイギリスが歌った。――その歌詞は俺をおもしろおかしくからかっているはずなのに、愛しそうにしんみりと歌う、君。
 せっかくの行進曲を、そんな葬送曲みたいに歌わないでくれ。
「大丈夫、勝てるよ」
 さすがに100年余りの戦いで疲れているのだろうか、珍しく気を使って声をかけると、「当たり前だ」とこれまた強気な答えが返ってきた。
 ――うん、勝てることは知ってるんだけどね。
 そうとは言えない辛い身である。
「それにしてもフランスの奴、原住民を味方につけたからって調子乗りやがって」
 どうせこちらが勝つのに、一度は敗北を喫したことが悔しい。
「お前の友達なんじゃなかったのか」
「最近はケンカしてばっかりで、仲悪かったんだよ」
 アメリカはイギリスの顔色をちらりとうかがった。
 自分が原住民ともっと友好関係を取りもつよう努力していれば、彼に余計な手間はかけなかったのに、やっぱりダメだった。
「まぁしょうがないな、アメリカだからな」
「それどういう意味だよ」
 外交とか細かい駆け引き苦手そうだもんな、という調子が気に食わない。
「いやいや、とりあえずあの砦、占領してからな」
「そうだね」
「もうこうなったらケベックシティまで占領してやろう。お前強くなったから、きっと大丈夫」
 また、そんな切なそうに言う。
「もちろん」
 占領できることも知っている。自信満々に言った。それでもイギリスは浮かない顔。戦況を心配してではないらしい。
「なんかイギリス元気ないな」
「……そんなことないさ。フランスのせいでちょっと疲れてるだけで」
「そう? 俺には、俺が強くなるのが嫌みたいに見えるけど」
 何気ない指摘に、イギリスの瞳が揺れる。
「……そんなこと、そんなことねぇよ」
「そう?」
 この戦争が終われば、もうイギリスに守ってもらう必要はない。
 自分は本当に、ひとりでこの世界を歩いてゆける。
 考えただけで胸が躍り、そうしてほんの少しだけ、胸が痛んだ。
















 Yankee Doodle、メロディはアルプス一万尺。もとはフレンチ・インディアン戦争で協力した植民地兵の装備のテキトーさというか手作り感を揶揄したイギリスの歌だったんだけど、アメリカの側が結構気に入っちゃって、愛国歌になったんだそう。(ちなみに日本語の「アルプス一万尺」は29番まである。このアルプスはスイスではなく日本アルプスのことだ。)
 こういう戦争関係の細かいネタは全部うぃ●ぺでぃあ経由で入手したものなので、あまり参考にしないでください(笑)。ウィキ楽しい! 超マニアック。あとは受験生の味方、某山●出版の単語集とか……。


(2007/9/12)



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