{1649年 ニューイングランド植民地某所}
一月、やはり国王チャールズ1世は議会によって処刑され、イギリスはCommonwealthと呼ばれる共和政に入った。
その知らせを見つめながら、半日間悩んだ。
街は本国の一大事件に朝から騒然としている。
結局ペンを取って、兄の新たな上司に手紙を書くことにした。こんなことしかできない自分が歯がゆかった。
「『拝啓、クロムウェル卿』と……『この度は突然の手紙、お許し下さい』」
……なんか堅苦しくて嫌だな。
っていうか国王でもないのになんでこんなに丁寧にしなきゃいけないんだ。
いや、でも一応イギリスの上司だぞ。
小一時間ほど悩んだが、結局フランクに語りかける感じを心がけた。我ながらそれはどんな感じだと言いたい。
拝啓 クロムウェル卿
この度は突然の手紙、許してほしい。
君がイングランド国王を誅して自由を実現したこと、本当に喜ばしく思うよ。心からお祝いの言辞を述べさせてもらう。
しかし国を治めるというのは大きな責任の伴うもの。初めての試みに、不安も多いと思う。そこで、初めて国王に代わって政治を執る君に、俺の最愛の兄アーサーのためにも、二、三言いたいことがある。
まず、国民に憎まれるようなことをしてはならない。そうなれば、君は国王と同じ運命をたどり、英国の平穏は再び脅かされるだろう。
アーサーの言うことをよく聞いて、常に国を平穏に保つ努力をしなければならない。
軍事で人を抑えつけることは決していい結果を生まない。
君はなんのために国王を廃したのか、それをずっと忘れないでいてほしい。君が第二の国王にならぬよう。
「なんかいちいち遠回しな言い方になっちゃうな……」
こんなんで伝わるのか。
「『護国卿なんてものにはなるな、居酒屋とか劇場は閉鎖するな』って書いた方が絶対いいよな……」
でも、具体的すぎて怪しい。
あとで何か色々問題が起きそうだ。
ものすごく悩んで、結局ほんのりほのめかすことにした。
「『特に、劇場を閉鎖したりとか、そういう極端な行動に走らないこと』」
字が小さめなのは迷いの表れである。
植民地ごときが本国の政治に口出しするのもおこがましいと思ったが、本国の平和と自由をいつも祈っている。
それでは、お元気で。兄によろしく。
敬具
北米ニューイングランド植民地 アルフレッド・F・ジョーンズ
送ってしまってから、ああ、もっと子供っぽく書いた方が、イギリスに見られたとき怪しまれなかったかな、と少し後悔したが、もう手紙は海の上である。
そもそも、イギリスに何の話もなく上司に手紙を送るなんて、それ自体が初めての試みすぎて怪しい。
けれどこれしか思いつかなかった。
イギリスを幸せにしてやる方法。
ピューリタン革命の間中、ずっと苦しそうだったイギリス。
「せっかく俺は未来を知っているんだから、少しでも正義のためにこの知識を活用しないとな……」
正義のため、そう、正義のためだ。
(2007/9/9)
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