ユナイテッド





「世界がぜーんぶアメリカになったら、幸せだと思わないかい?」
「死ねバカハンバーガー野郎」
 二人の間を風が流れていく。地上30メートル。西の空はほのかに赤いが、まだお互いがはっきり見えるほど明るい。
 少し肌寒くなってきたか。コート置いてこなければよかった。
「結構本気だぞ」
「一昔前のロシアみたいなこと言うなよ。これ以上国際社会を敵に回す気か?」
 アメリカはなおも真顔で、両手を広げる。その手にこの空がすっぽり納まってしまいそうだ、とぼんやり思った。
「でも、君もかつては、それを目指したろ?」
「……目指してねぇよ」
 そんな、空想家じゃない。
 手に入るもので、有益なものはすべて手に入れようとは思ったけれど。
「だいたい、幸せって、誰が? お前が?」
「世界中がだよ。決まってるじゃないか」
 昔からこいつの言うことは大きい。大きすぎる。ヒーローだかなんだか知らないけど。現実ってものがわかってない。
「ため息つかないでくれよ」
「……ついたか?」
「昔から君のため息大嫌いなんだ」
「そりゃ悪かったな」
「自分はなんでもわかってる大人ですって顔して、俺のことを子供扱いする」
 レンズ越しのその眼差しに、本気で非難めいたものを感じたので、少し反省したが、しかし。
「みんなお前と同じわけじゃないぞ」
「幸せになりたい気持ちは同じさ」
「少なくとも、俺とお前が統合したら、俺は幸せじゃないと思う」
「あぁー、君はね」
「マジメに聞けよ」
 あ、またため息ついちまった。
「……みんなそうだよ。お前と統合なんかして、……迎合なんかして」
 幸せなもんか。
「……へぇ?」
「人にも、国にも、プライドってものがあるんだからな。お前はそれをわかってない。お前は、悔しいけど、大きくて、強いから、わかってない」
 こんな気持ち、なかったら幸せになれたろうに。
 劣等感とか、変な自立心とか。
「……わかってないって君は言うけど」
 あぁ、もう休憩時間が終わる。
「わかってたよ、昔は」
 こいつが批准しないとかゴネなければ、今頃京都観光だったのに。
 それってどれだけ昔だよ。

 あぁ、みんな、忘れてくんだ。

 だから、幸せになれる。

 だから、幸せになれない。

「それに、君がそれを言うのかい」
 風。冷たくなってきた。日本も12月は寒い。
 この世に生まれて、孤独は、一番の不幸だ。
 今更だろう許してくれと、自分の不幸に他人を付き合わせる俺もお前も。

 ほんとはただ、幸せになりたいだけなのに。



















(2007/7/26)



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