君のスコーン





 久々にフランスの家に遊びに行ったら、そこには先客がいた。
「なんだ、イギリスもいたのか」
「なんだとはご挨拶だな」
 憮然とするイギリスは無視して、がさごそと持参した紙袋をあさる。
「フランス。これこの前夕食ごちそうになったお礼。クッキー焼いたからよかったら食べてくれよ」
「クッキーってなんだよ。……あぁ、ビスケットのことか」
 怪訝そうな顔をしたイギリスが、透明な袋にラッピングされたクッキーを見て、忌々しげに言った。いつもそう。「キャンじゃねぇカンだ!」とか。クッキーはクッキーだろうに。
「ビスキュイな。ちょうどお前んとこの素朴ーなの食べたかったんだよな」
 俺の分のコーヒーを入れに立ってくれていたフランスが言うから、少しムッとする。
「素朴じゃないよ。今日のはインディペンデンスデーの余りだからね」
 どうだい、よくできてるだろ。
 なのに戻ってきたフランスときたら「あぁ……」なんて日本みたいな気の抜けた声を出す。
「うげー。赤色5号に、青は何だ? 俺ならストロベリージャムとブルーベリージャムにするね」
「うーん……今回ばかりはイギリスに賛成……」
 ハァ? なんだいそれ。そんな黒ずんだ星条旗見たくないよ。
 結局、文句を言いながらも、二人は「アメリカ死ねっ」とか物騒なことを呟きながら星条旗をあしらったクッキーを割っては楽しんで、お茶請けに完食。
 なんだかんだ言っておいしかったんじゃないか。まぁイギリスの作るお菓子よりはおいしい自信あるよ。見た目もカラフルで楽しいしね。
「じゃ、俺はそろそろおいとまするよ」
 フランスと別れのキス。
 するとイギリスも立ち上がって、「俺もそろそろ帰るな」だって。
「じゃあ二人とも玄関まで送るぜー」
 玄関の前で、イギリスが甲斐甲斐しくもフランスとキスするようだったから、庭を眺めてそれを待った。別に初めて見るわけじゃないけど、頑張るよね君。
 人に触るの苦手なくせに。あ、触られるのが、なのかな。
「なんだ、待っててくれたのか」
 ぼんやりしていると、かけられた声。
「置いて帰ろうなんて、そこまでガキじゃないよ」
 なんて言いながら、「あれ、なんで待ってたんだろう……」と後悔の念が襲ってきた。
 ま、どうせすぐそこまでしか一緒じゃないんだし。
「お前さぁ……」
 イギリスが珍しくしんなりしている。
 ああめんどくさいなぁ。このテンションのイギリスは激しく扱いづらい。
「俺のとこにはビスケット焼いてきたりしないよな」
「……なんで俺が君のためにビ……クッキー焼かなきゃならないんだい」
「この恩知らず」
「君に似たのさ。じゃあ俺はこっちだから」
 軽く手を挙げてバーイと言うと、なぜか頭の隅にフランスの頬にキスするイギリスが浮かんだ。
 見なかったはずなのになぁ……。
「おいっ、バーカッ!」
 背中ごしに不名誉な呼称。
 俺のとこにはクッキー焼いてこないよな、だって?
 俺のクッキー食べさせてやるより、君のまっずいスコーンけなす方がいい気味だからに決まってるじゃないか。
















 文句言いながら食べるのが好き。

 元ネタ:「アメリカの女の子がお母さんから最初に教わるのは、クッキーの作り方です」というかなり昔のCM、「日本ではクッキーとビスケットという呼び方を使い分けるが、イギリスではビスケット、フランスではビスキュイ。アメリカでビスケットといったら軟らかい菓子パンをさす」という、お菓子の箱に書いてあった豆知識。


(2007/7/26)



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